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第26話 死に最も近き者

もう少し早めに更新したかったです。遅くなりました!

 あの最後の警告の夢を見た後、結局スミレは気になって、一睡も出来ず、気づいたら朝になっていた。

 香蓮にはすぐに話したかったが、今日午前中から引っ越し業者が来る事になっていた。

 今、スミレと片桐は簡単に朝食を終え、それを待っているところである。

 スミレたちは、明日細灰島に向かう事になっている。

 そのため、夢の話は、引っ越し業者が引き上げた後、香蓮に話をしようと思っていた。


 と、そこにスマホが震えた。

 ラインから香蓮の呼出だった。

 片桐も一緒にとの指示だったので、2人で香蓮の執務室へ向かう。


 そこには本日来訪予定になかった工藤が、ソファに座っていた。


 スミレの心臓が大きく音を立てる。

 スミレと片桐は、工藤の向かい側のソファに急いで座った。

 工藤は2人が席に着くや、口を開いた。


「スミレさん、死が迫っている人物が特定できました」


 目の前のテーブルに示されたのはある人物の資料。

 東条院実。スミレの父、英の従妹に当たる人だ。


(ああ。やはり)


 違ってくれれば。あの優しい人でなければと願っていたのに。

 事実は、残酷だ。


「間違いないと思います。私も実叔父様だと思います」

「なぜ、断言できるのです? 先日までは、見当もつかなかったのでは? だからこそ、私たちに助けを求めめたのではなかったのですか?」


 工藤は、スミレの断定的な言い方に、目を見張る。


「最後の警告があったんだね?」


 自分の執務机の向こうから、香蓮が声をかけた。


「はい。今朝方の夢で、実叔父様が、出て来ました。私は砂浜で実叔父様に遊んでもらっていました。優しい笑顔で、叔父様は私を見つめてくれて。でも突然、その叔父様を砂が地面へと引きずり込みました。私は恐怖でただ立ち尽くすのみで。ああ、すっかり飲み込まれてしまう! と、思ったところで目が覚めました」


今話していても、心臓が軋む。


「今まで、こんなにはっきりと人物を特定できた夢を視たのは、初めてです。もしかしたら、能力を前向きに受け止める気持ちになったからかも」

「あるいは、能力は違えど、キロやトールとの能力者の接触によって、能力が刺激を受けたのかもしれませんね」

「そのようなケースがあるのですか?」

「わかりません。一つの可能性ですよ」


 そうだとしたら、“辺境の地”との出会いは、スミレには必要だったという事かもしれない。

 これも、研究の余地ありと言ったところか。


「自分の能力については、また後程考えます。私が昨夜視た、というのも、今日工藤さんから報告があった事も偶然ではないです。工藤さんからの報告を見越して、私に知らせて来たと思います。夢で終わらせるなという警告も含まれているかと」

「なるほど。では間違いないですね」


 東条院実。

 昔からとても病弱だったらしい。

 その為、敢えて東条院の事業には参加させず、彼の好きな美術の道を進んで、本の挿絵画家をしていたらしい。

 工藤は実の様子を話す。


「もう身体から半分、魂が抜けかかっているらしい。いつ逝ってもおかしくない状態だと」

「病気ですか?」

「いや、どこが悪いという事ではない。生きる気力がないのが一番の要因だ」

「なぜ? 何かあったのですか?」

「ああ。今から一年前。実氏の妻、君から見たら叔母のみちるさんが、交通事故で亡くなったそうだ。実氏はかなりなショックを受けて、落ち込みようはひどいものだそうだ。日に日に儚く弱っていく姿を周りの者たちも心配している状態のようだ」


 殆ど実家との関係を絶っているスミレは、みちるの葬儀には出ていない。


「仲のよいご夫婦だったのですね」

「そのようです。更にこの実氏は生気を周りに吸い取られやすい性質のようです。今は生きる気力も失い、流れでるままのようです」

「病気ではなく体質なんて。それでは、助ける事はできないのでしょうか?」


 今更体質改善なんて、とても間に合わない。


「手はある」


 スミレの疑問に答えたのは、香蓮だった。


「スミレたちが来る前に、工藤氏と対策を考えていたんだよ。まずは早急に実さんには入院してもらう。理由としては先だって実さんの家族が心配して、受けさせた健康診断の結果、心臓に病気が見つかった事にする。一度は異常がないと診断結果が出たそうだけどね、何、それはどうとでも理由づけはできるからね」

「でも、それでは根本的に解決できないわ」

「ああ。だが、何かあった時に病院にいれば、早急に対処できるだろう?」


 確かに。家にいるよりは助かる率は格段に違う。


「他にできる事はないでしょうか?」


 自分もできれば、何かしたい。その何かがわからない。気ばかり焦る。


(あの優しい人を助けたいのに)


「我々にできる事は残念ながらあまりない。入院中は、できるだけ実さんの家族に、今以上に彼に寄り添ってもらうように促す。そうして生きる気力を取り戻してもらうしかない」

「それだけですか?」

「ああ。後は実さんのご家族のがんばりと、時が悲しみを癒してくれるのを祈るしかない。我々がこれ以上でしゃばると混乱を招き、事態を悪化してしまう」


 そうだ。良かれと思って動いた結果、相手を不快にさせ、頑なにさせては元も子もない。

 過去自分が動いた結果がそれだったではないか。

 工藤が、真っ直ぐスミレの目を見た。

「スミレさん、我々はできる事をしましょう。やれることをやらずに後悔するのは愚の骨頂ですからね」

「はい」

「ではこれから、私が実氏に会って説明し、入院させて来ます。香蓮様、その際東条院の名を使わせてよろしいでしょうか? でなければ、おそらく話を聞いてももらえないでしょうから」

「ああ、構わない」

「実氏が検査を行った病院は、東条院が懇意にしている病院でしょうか?」

「ああ、かなり良くしてもらってるよ」

 香蓮はにやりと意味深に笑う。

「そうですか。では、病院から本家に知らせが入り、私が急ぎ説明しに来たという設定で押します」

「わかった。兄には私から、報告を入れておく」

「ありがとうございます。スミレさんと片桐くんは予定通り、引っ越しの手配をしてください。実氏との話しを終え次第、すぐにご報告しに参ります」

「わかりました」


 スミレは、歯がゆく苦い思いを飲み込む。

 結局、自分は何もできない。


「暗い顔はやめてください。何もできないと嘆く暇があったら、自分に何かできることはないか考え続けてください。実氏はまだ生きているんですから」

「!」


 そうだ。たった今、死に近い人物が判明し、状況を知ったばかり。

 打てる手は打って、時間を稼ぎ、よりよい打開策を考える。今できる事はそれだ。


「申し訳ありません。悪い事ばかり考えてしまいました」

「いいんですよ。それが普通です。私は場数を踏んでますからね。あの碕森の下にいますから」

「違いない」


 香蓮が大きく頷く。

「ふ」


 それにスミレは思わず笑ってしまった。


「さあ。時間がもったいない。動きましょう」


 工藤の号令とともに、皆立ち上がった。



人の気持ちってままなりませんよね。。

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