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報われない片想いの話

親友ができるまでの話

作者: 紅南瓜

「報われない片思いの話」の友人視点の話です。できれば両方読んで頂けたらと思います。


最初の印象は、俺とは正反対の馬鹿でうるさいやつ。

それなのに突然声を掛けてきた。迷惑。静かにしてほしいと思った。返事はしなかった。

次の日も、その次の日も声をかけてきた。でも、最初とは違いだんだん大人しく声をかけてくるようになった。それでも関わりたくなかった。

毎日毎日声をかけられた。三週間くらいたって根負けして、俺は不機嫌さを隠そうともせずに何か用かと聞いた。

すると相手の表情が見る見るうちに緩んで満面の笑みに変わった。呆気に取られた。そのままその笑顔にすっかり毒気を抜かれてしまい、普通に話をした。

勉強嫌いそうな相手と話なんて合わないと思っていたけれど意外とそうでもない。

俺のする、もののしくみや法則の話を楽しそうに聞いてくれた。授業として聞くと眠いけど、お前が話してくれると面白いとそう言ってくれる。それが嬉しくて、いつの間にかそいつと仲良くなった。

それまで友達というものがよく分からなかったけど、俺達はもう友達だと教えてくれた。友達っていいものだったんだなとそう思えた。

その後から何故か他の同級生にも話しかけられるようになった。今までは煩わしいばかりだったけれど、もうそんなことはなかった。出来るだけ話をしよう、友達になれるように努めようとそう思った。

話をしてみると案外嫌な気分にはならなかった。けれど、最初ほどの感動はなかった。

他のやつらともそれなりに仲良くなれたし友達だったのだろうけど進級とともにだんだん疎遠になっていった。残ったのは最初に話しかけてきたやつだけ。

こいつだけは他とは違った。やたらと俺に構ってきたし、俺もそれが心地よかった。

いつの間にか知り合って何年もたっていて俺達は思春期真っ盛りになっていた。その頃になると恋愛方面の話がやたらと飛び交った。

例に漏れず俺も男女を意識するようになって、女の子を可愛いと思うようになっていき、だんだん一人の子が気になるようになった。

丁度その頃、あいつに気になる子はいないのかとか彼女をつくらないのかと聞かれるようになった。俺は恥ずかしいと思いつつ、素直に答えた。すると、応援するよとそう言われた。

それは気持ち的なものではなく実際にあいつとその子が話している話の中に混ぜられたり、その子の勉強を見てやれとお膳立てされたりとやりすぎなくらいあからさまなものだった。その為相手もなんとなく気持ちに気づいていたと思う。俺はもう言うしかなくなって、その子と二人で遊んだ帰りに告白した。そして付き合うことになった。

俺は嬉しくてその足であいつの家に向かい真っ先に結果を報告した。良かったなと頭をくしゃくしゃされた。そのせいでその時どんな顔をしていたのか全く分からなかった。

その後は順調に交際した。何年か付き合って、同棲をはじめたりした。あいつとの仲も親友と呼べるくらいになっていた。

自分が付き合いはじめると周りにも勧めたくなるもので、あいつにも彼女はつくらないのか、いいものだぞと言った。けど、そんなこと言わなくともあいつはいつの間にか彼女をつくった。ダブルデートなんかもした。しかし、あいつの交際は長く続かなかった。かわるがわる恋人をつくっていた。

どうしてそんなに相手が直ぐに見つかるのかと不思議に思って聞いてみたが、愛に生きる男だからだなんてふざけた応えが帰ってくるばかりだった。

長く続けることばかりが大事な訳ではないので、あいつに早くいい相手が見つかれば見つかればいいなと思っていた。時々男の恋人をつくったことには少し驚いたが、嫌悪感とかはそんなにいだかなかった。たぶん、俺と話している時のあいつが何も変わらないからだったと思う。

そんな感じで何年もたち、仕事も落ち着きはじめた頃に彼女にプロポーズした。結婚が決まった。

二人とも派手なのは性にあわないので結婚式は親戚と少しの友人を招いて小規模なものにしようと彼女と決めた。少しの友人、俺はあいつと、あと誰を呼べばいいものかと悩んだ。結局同僚数人を呼ぶことにしたが、その時点で友人代表としてスピーチをお願いする人は決まりきっていた。

結婚報告とともにあいつにスピーチのお願いを電話でした。あいつは交際報告をしたあの時と同じように良かったなと言って、お前の恥ずかしい暴露話でもしようかなどとふざけたことを言った。ふざけんなと電話をきった。なんだか照れくさいような誇らしいようなむず痒い気持ちだった。

結婚式当日、俺は最初から緊張してどきどきしっぱなしだったが大した問題もなく式は順調に行われていった。

そのまま披露宴、ケーキの入刀後、彼女もとい妻の友人が彼女との思い出を語りあいつの番になった。ふざけたことを言っていたので警戒しながら聞いていたが、俺がどんな奴だったか、どんなに良い奴か、そんな俺と結婚出来ることは幸せだと真剣な表情で話した。

その顔を見れば心からそう思ってくれていることが俺にはよく分かった。そしてそこ迄読んで表情が変わった。一瞬の間があいて、絞り出すような声で結婚おめでとうと言った。

その間は"ため"ではないと会場の中でたぶん俺だけが気づいた。そのままあいつは会場をでた。

俺は焦った。主賓が易々と席をたってはいかないと分かっていたけど追いかけない訳には行かなかった。腕を掴んで引き止めた。しかし、あいつは振り向きもせずに「小っ恥ずかしくて居られない」とそう言った。適当な言い訳だと分かっていたが手を離すしかなかった。

本当の理由がなんとなくわかるような感じがしたからだ。けれどそのまま、分からないままにしよう思った。たぶん、このこたえを一生聞くことは出来ないだろう。

会場へ戻り披露宴を続けた。

あいつのいなくなった会場で、幸せそうな花嫁の横顔を眺めながら。


「報われない片思いの話」「終わらない片思いの話」が親友視点の話となっております。これらが本編のようなものなので合わせて読んで頂けたらと思います。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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