1-3.異世界ゲーセンにようこそ
「ねぇねぇ、ケイ。この木馬さ、街の中心にある噴水広場に
置けば、勝手にお金チャリンチャリン入ってくるんじゃないの?」
「ユーナ。置くだけじゃダメだよ。ゲーセンは設置産業じゃないんだよ!」
「げーせん?せっちさんぎょー?どういこと??」
「つまりこういうことだ。木馬を広場に置くとしよう。
でも、お客様は、その木馬でどうやって遊べばいいかとか、
おカネを入れるとどんな楽しいことができるか分からないでしょ?
そんな状態で、お客様は木馬にお金をいれるかね?」
「…入れないね。」
「そう!つまり、お客様と木馬の間にある距離を埋めるのが、
我々スタッフの役割なのだ!」
「すたっふ?」
「そうよ。お客様に、この木馬面白そうと思ってもらい、
お金を入れ、遊んでもらい、楽しい思い出をつくってもらう。
このお客様と木馬の間にスタッフが入り、木馬に付加価値(=サービス)を
つけるのが《おもてなし》というものなんだ。」
「おもてなし?」
「そう。説明してもよく分からないと思うから、
実践でみせてあげるよ。」
「ユーナ、この2台の木馬は別々のオペレーションで行う。」
「おぺれーしょん?」
「まず、こっちの青い木馬。こっちには木でつくった剣と盾を
お客様にもってもらい乗って遊ぶ、男の子用木馬だ。
そしてこっちの赤い木馬は、ドレスと、木馬に羽を付けた
女の子用木馬だ。」
「あー!昨日ケイが夜なべして作ってた小道具は
このためだったのね!」
「そうそう。ただ木馬に乗って楽しむだけではなく、
騎士やお姫様になって遊ぶ付加価値をつけることによって、
より木馬遊びに臨場感が出る。これが、《おもてなし》だ!」
「なるほど!!」
「私たちスタッフは、接客や小道具で非日常の演出を行い、
お客様を《おもてなし》するんだ!」
「それが、《おもてなし》ってことね!」
「普通に木馬を置いて商売するのではなく、お客様がドキドキ
ワクワクするような演出で木馬に乗せれば、《おもてなし》の
有る無しで売上は天と地ほど違う。
ゲーセンにスタッフがいる理由は、まさにこれだ!」
「へー、なんだか、《おもてなし》する私の方も
面白そうだよ!!」
「そうなんだ!スタッフが楽しまなければ、当然お客様も
楽しめない。今日はとことん楽しんで行こう!」
「おーーっ!!」
こうして私たちは、最も人が集まる街の中心にある噴水広場に
2台の木馬を置き、営業を開始した。
「さーさー、世にも不思議な動く木馬!
青い木馬は勇気の木馬!馬に乗って魔物を倒せ!
紅い木馬は愛の木馬!ドレスを着て空飛ぶ木馬でひとっ跳び~!」
私の呼び込みにすぐさま子供たちは飛びつき、あっという間に
大行列ができた。
ユーナは子供たちと楽しそうにふれ合い、うまく場を演出している。
それを見ていたまわりの子供や大人も興味を引き付け、入れ食いのように
お客様が次々に行列を作り、その列が途切れることはなかった。
結局、1日中行列は途切れることはなく、大盛況のあいだに
初日の営業は終了した。
「いや~ケイ、今日は本当にすごかったね~!!楽しかった~」
「うん。たしかに予想以上だったね!この調子で明日からも
ガンガンやっていこう!」
「でも、木馬がもっといっぱいあったら、もーっとたくさんの人に
楽しんでもらえるのにね~。」
「確かにそうだよね。でも、そもそもこの木馬がどうやってここに
来たかも謎だし、どうやって増やせるのかもわかんないしなぁ。
しかも、こんな頻度で運営してたら、すぐ壊れてしまうかもしれない。」
「えーー!?壊れるのはマズイよ~」
「そうだよね。壊れないためには木馬のメンテナンスも必要だ。
お客様が安全に遊べる状態に機械の調整をするのも、《おもてなし》なんだ」
と、私が木馬の様子を見ようと、近づいた瞬間!
「ジ――。ミッションクリア。1000回稼働達成。
新規筐体がアンロックされました。」
「も、も、も、木馬がしゃべったっーー!!」
「いま何て…新規筐体がアンロックされた!?…もしや。
ねぇ、ユーナ!今すぐ、あの洞窟に行こうよ!!」
「えっ!?今から~?今日は疲れたから明日にしようよぉ~」
「いいから、すぐ来い~!!」
もしかしたら、筐体には稼働回数のミッションが設定されていて、
ミッションをクリアすると、新しい筐体が次々に現代から転送されてくるんじゃないかな?
だとしたら洞窟に行って、新しい筐体があるか確かめるしかないっ!!
私とユーナは、木馬が出現したあの洞窟に向かって、夜道を走って駆け抜けた。
「ふ~、到着した。でも、ここに何があるの~?」
「まずは洞窟の中に入ろうよ。話はそれからだ。」
私たちが洞窟の中に入ると、まばゆい光を発した物体を発見した。
「あっ!あれって!!」
「アンジェリーナⅡだ…旧型のビデオゲーム筐体。おそらく新品だ。
で、中に入っている基板は…こ、これは《ジェネシス》!!!!」
「なに~?ケイは知ってるの~?」
「知ってるも何も、ZAMが一世を風靡した伝説のシューティングゲーム
《ジェネシス》!!こいつの売上だけでZAMの本社ビルを建てることができたくらい
メガヒットしたゲームだ!!」
「へ~。そんなにすごいんだ~。遊んでみたいな~。」
そうか。また《ジェネシス》でも稼働回数ミッションが設定されていて、
それをクリアすれば、新しい筐体が転送されるんだな。
これを繰り返していけば、この世界でゲーセンの運営ができるかも!?
しかも娯楽に飢えたこの国の人々に、新しい遊びを提供することができる!
競合もいない、余暇時間を奪う娯楽もない!
この世界でゲーセンをナンバーワンの娯楽にできるんじゃない!?
「ついに、私のノウハウを存分に発揮できる環境ができたー!
ユーナ!これから私たちはベルバレでゲーセンをやる!!
そしてゲーセンをアムゼランドのナンバーワンの娯楽にするんだ!!」
「なんだかよくわかんないけど、面白そうだからやっちゃうよ!!」
―アルス最大の国、キングダムエデン。
この国の首都ブレイブシティには、魔王からこの国を救った勇者が住んでいた。
勇者の居城セントラルタワー。
「勇者様、ご報告いたします。東の国アムゼランドのベルバレという街に、
奇妙な木馬を使い、商売をしているヒュームが現れた、とのことです。」
「ほう…木馬ねぇ。ついに現れたか。
少々予想よりは早いが、やはり新しい転生者が現れたか。
木馬…ということは、向こうのゲートはアーケード機を転生できるということかな…ふむ。
ところで、第7ゲートの状況はどうなのかな?」
「はっ。現在のところ、特に変化ないとのことです。
フラワーカードに次ぐ遺物はまだ転送されていないとのことです。」
「そうか。分かった。では、引き続き、フラワーカードスタジアムの建設を急いでくれ。
世界中に、この遊びの楽しさをもっと広めていきたいからね。」
「はっ。承知致しました。勇者様!」
私がこの世界に転生して、もうどれくらいになるだろうか。
私は、この世界に《娯楽》という武器で、魔王から平和を取り戻した。
最初は、けん玉からスタートした。
10回くらいでミッションをクリアして、めんこ、おてだま、ベーゴマ、
トランプときて、花札まできた…。
しかし、花札から次がなかなか来なかった。
おそらく、ミッションノルマが千や万ではなく、もっと大きいのだろう。
だから私はスタジアムを作り、ミッションクリアを目指した。
新しく転生された者には、アーケード筐体が転送されているのかもしれない。
だとしたら、家庭用製品が転送されている私にとっては、脅威になるだろう。
アーケードとコンシューマー…。
異世界でも《娯楽》の歴史は繰り返されるってことなのかな…因果だね…
だが、ここから先は戦争だ。
―世界の果て魔王城。
暗く深い闇に覆われたこの城には、かつて
勇者との戦いにやぶれた魔王が、身を置いていた。
「おのれ勇者め。世界に《娯楽》をまき散らし、民衆を堕落させ、
腐敗した世界を作り出そうとする者…決して野放しにはできん!」
「魔王様、今は耐え忍ぶ時、必ずや勇者を倒し、再び曇りなき清浄なる世界を
取り戻すため、反撃のチャンスをうかがうのです!」
「うむ…わかっておる。」
しかし、恐るべき奴よ…勇者。
やつの目的とは一体なんなのだ!
フラワーカードの驚異的な普及速度!一瞬にして民衆に拡散していった。
それこそがヤツの最大の武器!!
ヤツは《娯楽》を量産できるゲートを持っている!!!