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異世界ゲーセン繁盛記  作者: 味玉タンタンメン
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1-1.ゲーセンにようこそ


私の名前は白石圭。25歳の社会人女性だ。


就職氷河期の激戦を乗り越え、憧れの大手ゲームメーカー、株式会社ZAMに就職した。

子供の頃から夢だったゲーム制作に携わることができると、希望を膨らませ入社したのだったが、

なんと配属先は営業部門のロケーション事業部(ゲーセン運営)だった。


うちの会社は、ゲーセンのことをロケーションと呼び、社内ではゲーセンという言葉を

なぜだか使うことはなかった。

だから社内の人と話すときは、ロケーションと言い、社外の人と話すときはゲーセンと言った。


ゲームセンターは、ビデオゲームやプライズゲーム、音楽ゲーム、プリクラなど、

いろいろなジャンルでヒットが出ると、その度に大きな社会現象が起こり、

身近な娯楽施設として、さまざまな人たちから人気を博していた。


しかし、近年では、コンシューマー(家庭用)ゲームの高性能化やスマートフォンの登場、

消費税の増税など、ゲームセンターを取り巻く、さまざまな環境の変化が影響し、

ゲームセンター市場は年々縮小していき、中小のゲームセンターは潰れ、

ZAMをはじめとした大手ゲームメーカー数社も細々と営業しているのであった。


この若干寂れた業界に私が身を置き、早3年が経過した。

新卒入社で3年が経過すれば、次の年の人事異動で希望する部署に

異動できる社内公募制度というものがZAMにはあった。

私は、ついにこの年、FAフリー・エージェントを取得し、

ゲーム制作部門への異動が認められたのだ!


3年遅れたが、遂にゲーム制作ができる!私は再び希望を取り戻した!

ゲームセンターはキライじゃない。

素晴らしい先輩や店長たちに、ロケーション運営のノウハウを叩き込まれ、

ゲーセンでお金を稼ぐテクニックを手に入れることができた。


そして、お客様がゲームをする姿を直に見れるゲーセンの環境も大好きだ。

だが、この経験を活かして、次のステップに進みたい!

私は、後ろ向きな理由ではなく、前向きな理由で、ゲーセンを去るのだ!!

…と、自分の心に言い聞かせているだけだったのかもしれない。


ロケーション勤務最終日。

私はロードサイド店舗の店長をやっており、バイト不足から、

早番後に遅番も通しで勤務していた。いわゆる早遅番だ。

店舗の営業時間は10時~24時だ。


正直、早遅シフトは、うら若き乙女には辛いが、それも今日までだ。

先月から後任の店長との引継ぎも終わり、明日からは渋谷のZAM本社で

勤務予定だ。初のオフィスワーク!初の土日休み!

アフターファイブって何だ?それウマいのかッ!?

私のこれからは、どうなってしまうんだろう?

もうワクワクが止まらない!!


私の勤務するロードサイド店舗《ZAMシティ》は、国道沿いの単独店舗で300坪弱の2F建て。

プライズ、メダルを主力として、アーケード、プリクラ、ビデオゲームなど、

幅広くラインナップされている。

客層も学生、カップル、社会人、ファミリーと、幅広い。


かつては月商5000万円はあったらしいが、現在はどうがんばっても月商1500万円。

繁忙期でも2000万円オーバーがやっとの状態まで下がっていた。

売上推移を見れば、業界がいかに弱っているのが身に染みて実感できるというものだ。


私がロケーション勤務でラッキーだったことは、新入社員の配属時の店舗の店長が

ZAMでトップクラスの成績を残す伝説の店長であり、彼から指導を受けられたことだった。


私は家庭用ゲームはやったことがあったが、ゲームセンターにはほとんど行ったこと

がなかった。だから、入社するまでゲームセンターにどういうゲーム機が置いてある

のかすら知らなかった。今思えば、よく、ZAMに入社できたものだ…


そんな状態の私に対して、師匠は遊び方から設定の仕方、メンテナンスの仕方、

ロケーション運営のノウハウを惜しむことなく注いでくれた。

そのため、私もゲームセンター運営の楽しさに目覚め、みるみると実力を伸ばし、

3年目で社員部下のいる中型店舗の店長に抜擢されたのであった。


「白石店長、1Fビデオコーナーの《パズルドリルン》のモニターが壊れてます。」


閉店3時間前の21時、バイトの赤井くんがビデオゲームの故障を報告してきた。


「わかった。いま行く~。」


ビデオゲームコーナーは新型からクラシックなものまで幅広く揃えていた。

そのため、固定客を集めており、一定の売上を得ることができていた。

店舗の主力はプライズとメダルだが、売上が動くのは主に週末で、

平日の売上を支えるのは、ビデオゲームコーナーだ。

金額が少なくても、ビデオコーナーの売上の積み重ねが、店舗売上全体に

大きく貢献されるのだ。


そのため、私は1台たりともビデオゲームの稼働停止を許さい。すぐ直す!を信条としている。

…といっても、これも私にすべてを教えてくれた師匠からの受け売りだったりするのだが…。


私はかつてZAM伝説の店長と呼ばれた人から、ロケーション運営ノウハウ(すべてとは言わないが…)を

受け継いだ。入社時には、工具ましてや、はんだごてなんて使ったこともなかったが、今では配線図だって

読めるし、はんだも綺麗につけられる。

だが、モニター修理だけは苦手だ。


液晶全盛なのに、クラシックゲームを動かす筐体のモニターはブラウン管だ。

重いしデカイし、何より、うっかり触ると感電してしまう。

私は感電が大嫌いだった。(たぶん好きな人はいないと思うが…)


ゲームセンター勤務者、たとえ女子であっても、

指輪やネックレスなど貴金属を身につけるのは言語道断だ。


なぜなら感電のリスクがあるからだ。時計もそうだ。

だから、私はゴムラバーで覆われているC-SHOCKという時計を愛用している。

これなら感電しない。


身の回りのものは、見た目ではなく、機能で選ぶ!オシャレとは無縁の世界だ。

なぜならロケーションは、私にとっての戦場だからだ!

こんな戦場ライフも今日で最後だといっても、私は決して油断しない!

ぷぷっ、早く仕事終わらないかな~♪(隙だらけ)


1Fに降りて、フロアの一番奥にあるビデオゲームコーナーは、21時を過ぎたころが

一番客数が多い。

平日の夜にこれだけの集客があるのは非常にありがたいことだが、

私がラインナップした珠玉のクラシックゲーム目当ての常連客が多く、

我ながら自慢のコーナーなのである。


バイトの赤井くんが不具合を知らせてくれた「パズルドリルン」は、

ビデオゲームコーナーの中心のシマあたりのパズルコーナーにあった。

この「パズルドリルン」は、パズルゲームの中では、発売から10年も経っているのに、

未だに平均した高インカム(売上)を叩き出す、ZAMの名作パズルゲームだ。

かわいいキャラクターがドリルで地底を掘り進む斬新な世界観のパズルゲームで大ヒットし、

その後、続編が4作品ほど作られた人気シリーズだ。


ビデオゲームは、筐体とROMに分かれている。

コンシューマー(家庭用)で言うなら、筐体はゲーム機でROMはソフトだ。


今回のパズルドリルンみたいな、ちょっと古いROMは、

最新の筐体では稼働し辛く、ちょっと旧型の筐体であれば、設置が楽だ。


私もあまり詳しくは説明できないのだが、要はROMを差すコネクタの形状が違うから、

簡単には稼働できないということだ。簡単に言ってしまうと。


なので、今回故障した「パズルドリルン」が入っている筐体は、ZAMの中では、

旧式の筐体「アンジェリーナⅡ」ということになる。


しかし、この旧式のビデオ筐体「アンジェリーナⅡ」のモニター交換は厄介だ。

まずモニターはブラウン管だ。モニターの故障で多いのはモニターPCBの不良だ。

モニターPCBはブラウン管の裏についてある基板のようなものだ。


通常なら、店舗でモニターPCBの交換などしない。

なぜなら、モニターAssyつまり、モニター全部をパーツセンターに先出交換依頼をすれば、

モニターごと入れ替えられるからだ。しかし、これには稼働まで2~3日かかる。

それがイヤなら、店舗でモニターPCBの在庫を持ち、この場で交換する必要がある。


しかし、モニターPCBを交換するためには、ものすごい電流が流れているブラウン管に

触れずに基板を交換する必要があり、感電のリスクが非常に高い。


シロートは、絶対やっちゃアカンヤーツなのである。

でも、そこは私。モニターPCBの交換は過去に何度もやっている(というか、師匠に

無理やりやらされていたのだが…)

モニターPCBを交換できる25歳の女子など、この世に何人いるだろうか…。

私は今、自分の存在が浮世離れしてるのではないかと心配になった。

が、それも今日までだ!(何度でも言うぞ!)


「さーて、私の最後の仕事がモニター修理か。面白ェ、やってやんよ!」


私は筐体からモニターを取り外し、ブラウン管の裏にあるモニターPCBを見つけた。


「よしよし、イイ子だから素直に交換させてよ~モニターPCBちゃん♪」


馴れた手つきで、感電に細心の注意を払いながらも、モニターPCBを取り外そうとした瞬間!


「あっ!店長あぶないっ!!」


ドンッ!!


「えっ!??」


私がモニターPCBに触ろうとした時、横を歩いていたカップル客が中腰で座って作業していた

私の背中にぶつかり、私がバランスを崩して、ブラウン管に触れてしまった!


次の瞬間!


ビリビリビリーーッ!!


「ぎょえぇぇぇぇ~~~!!」


私が感電し、全身が青白い稲妻に包まれた。

そして私の身体が電光石火のようにパッと発光した後、その場から私の姿が消えていた。


「あれ…店長?いない…どこ行ったんだ???」


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