94 トラップ発動!
「出来たか? 」
Rの背後からカルが声を掛ける。
「完璧だ。見てくれよ」
「どれどれ、BM R。バッドムRの略? これじゃあ、ヒントにならねぇぞ」
「ヒントなんかあいつらには必要ないっ! グヘヘッ俺様参上って事で」
「まぁいいや、行くぞ R。もうちょっとシャドーゴーレムをこっちに引き寄せたら、右回りで迂回する。そしたら全力ダッシュして屋敷に戻る。その先はさっさとクエストをクリアするって段取りで」
「了解!」
ウォーターフロントパークから海沿いの道に出た後も、しばらく埠頭を横断するように歩いてシャドーゴーレムを引き寄せた2人は、シャドーゴーレムが埠頭に姿を見せたのを確認して、大急ぎで別の大回りするルートで屋敷に戻った。
「やっと着いたぜ。大丈夫か? 入っても」
「モンスターは出ないようにしたから、さっさと入れよっR」
「へいへいっ」
文句を言いながらも、壊れた玄関から1階のフロアに侵入したRにカルも続く。今回は白狐とメイドのイーニーと出会う事もなく、1階を素通りして、正面の階段から2階へ移動した。
2階フロアは円形になっていて、床いっぱいに黒と白のツートンカラーのタイルが放射状に埋め込まれている。古ぼけた屋敷に似合わないモダンなデザインの円の中心にカルは立つと、5つある部屋の中の1番左を指差した。
「そこか?」
Rが訊くと、もう1度データを確認している様子のカルが、焦点の合っていない顔のまま頷いた。
「今度はお前が扉を開けろよっ。さっき俺の腕が鳴るとか言ってたよな。その実力、見せてもらおうじゃないか」
「おうよ、良く見とけ」
部屋の扉の前に片膝をついて、両手で慎重にドアノブを回し始めるR。
「針が飛び出て来るぞっ!」
「いや、大丈夫だ。お前みたいに握ってないからな」
そう言うとRは変な体勢になりながらドアノブを回し切った。
カチャリ
金属音が響いて、素直にドアが開いた。そっとドアを開けていくと、薄暗い部屋が広がりその奥にロープに縛られた血塗れのエルフが床に転がっているのが見えた。
「あのエルフのロープを解いて、助けに来たって言えばクエストのクリアになる。余計な事は言わずにそれだけ言えよR」
「俺が助けるのか?」
「いいとこは譲ってやるよ。パーティも組んでるし、どっちが助けても一緒だ。シャドーゴーレムが戻って来る前に、さっさと終わらせようぜっ」
カルから促されてRは部屋に入って行った。一応部屋の中を伺って、天井からタライが落ちて来ないか気になりながら、足を踏み入れて行った。
奥に向かって長方形の部屋の中央……カルとRは並んでエルフの前に立つ。
部屋の左右の壁は大きな鏡で、左奥の窓から差し込んで来た光は、鏡に反射される事なく吸い込まれているようだった。
光を反射しない鏡。
変に思ったRが、左側に立つカルの向こう側の鏡を覗き込んだ。
鏡に映るカル越しの自分と目が合った瞬間、この部屋に仕組まれたトラップが作動した。
バンッ
変な音と共に2人の足元の床が消えた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
悲鳴をハモりながら落ちて行くカルとRは、必死に両手と両足を広げて落とし穴の暗い壁に押し当てた。
落とし穴自体はそう大きくはなかったので、2人は10mほどずり落ちた所で仲良く止まる事が出来たが、そこは殆ど光も届かない暗い空間。
踏ん張った足で壁に背を着けてカルとバッドムRは、絶望に直面していた……