89 世界のルール
「いや、ロゼッタ、うさぎを置いて行けばいいんだ。そうすれば助けるのはナギサとリサとラヴィちゃん、ちょうど3人になるじゃないか。それにうさぎがロゼッタのフィールドを抜ける事も無い訳だから、お前が壊れる事も無いだろう」
「そうね……でもその場合、見殺しになるのは誰かしら。うさぎ、お前はこの館から出る事が永遠に出来なくなるわ、それで良い? わたしの小間使いとして働いてもらってもいいのよ」
「意味がわかんねぇよ、ロゼッタが壊れるって。みんなで行けばいいじゃないかっ」
「時間がないの、頭の弱いうさぎに説明が必要かしら。ゲートがずっと繋がっている保証はないの。あんたがわたしのフィールドを抜けてしまったら、わたしは終わり。あんたがここに残ればあんたの終わり。そういう事よ、わかった?」
「うさぎ、リサはそれで壊れそうだったんだ。ラヴィちゃんはリサのフィールドを越えた。リサとロゼッタはこの世界の決まりで、自分のフィールドを越えられたら、壊されたか死んだ扱いになってしまう。だから壊れてしまう前に自分からラヴィちゃんの前から消えようとした。それがリサの選んだ終わりだった。でもラヴィちゃんはリサを離さなかったんだよ、きっと」
マッテオがロゼッタの言葉を繋いだ。
「俺が行く必要が無くて、ロゼッタとマッテオさんだけで行ってさ、ナギサちゃんだけでなくてリサとラヴィちゃんも救うって、そもそもどう言う話なんだよ。リサとラヴィちゃんはそこから飛び降りたのか? リサとラヴィちゃんはナギサちゃんの居る場所に先に行っているって事なのか?」
「リサは死んだわ。わたしが一緒に飛ばなければゲートを越える事は出来ない、だからリサがナギサの所に辿り着く事は無いの。リサは地面に落ちて砕けてバラバラになって消えてしまったわ」
「可能性だけ、行かなければ分からない話。そういう事か……」
「そうよ、うさぎが普通の道を行くとしても、それはわたしを倒してから。訳がわからないでしょう、でもそれがこの世界の決まり、変わることのない1つの道筋。いっそわたしと暮らしましょう、うさぎ。あなたがここに居ればわたしは帰って来れるから」
「俺がここでログアウトすればいいじゃん。そうすれば……」
「無理よっ。お前がこの世界から出る事が出来るのは使命を果たした時か、死んだ時だけ」
モフモフうさぎはログアウトしようとしたが、出来なかった。
「お前は先に行けばいいの。わたしと暮らすなんて冗談。付いて来なさいモフモフうさぎ。お前はわたしとリサとナギサを救って、ローズを見殺しにすればいいのよ。だってローズは多分死んでるから、もう外の世界で生き返っているはずでしょう?」
「ラヴィちゃんはもうこっちには来れないのか?」
「知らないわ、でも入るとしてもこの世界では無いわ。新しい世界、新しいリサが居て、新しいマッテオが居る世界。そういうことでしょう?」
「じゃあラヴィちゃんはもう二度とこの世界のリサと会えないんだな」
「リサが復活したらの話であって、まだリサが生き返るかどうかもわからない話よ」
「結局行くしか無いのよ。結果としてわたしが死んでも悔いはないわ。リサの所へ行けるもの、今度は一緒に暮らせるはずよ」
冷たい雨がロゼッタを濡らす。窓の外のベランダから飛び降りるのは、これで2回目のモフモフうさぎと、マッテオ、そしてロゼッタ。
「せーのっで行くわよ! せーのっ」