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87 鳥かごを開けて

「……リサも最後にお別れしたく無いな」


 そう言うと、リサは俺の首筋を舐めた。


「ローズは知っていたのね。うさぎに聞いたの? それともマッテオから?」


「2人とも何かを隠して俺にリサの事を話していたんだ。あっ変な意味じゃ無い、モフモフさんは俺にリサの翼は俺だって言って泣いてた時に、マッテオさんはリサの本当の姿を知った時に、それでもリサを大事にしてくれって俺に言った時にだよ。リサって綺麗な糸を出してモフモフさんを治してたよね……」


(毒って苦しむ系じゃなくって、動けなくなる系なのかな。だけど口はしっかり動くんだけど。意識もしっかりあるし……)


「リサはこのままがいいの。ローズは蜘蛛が好きって言ってくれたけど、でもこのままの姿がいいのっ」


 リサが深く息を吸って、押し殺すように息を吐いた。


「じゃあ、覚悟しなさいローズ。リサは羽ばたくって決めたの、だけどそこは大きな鳥かごの中でしか無かったの、リサわかったの、変わらない決まりがあってリサはこの世界、ローズは外の世界、リサはついて行けない……」


「あーもじれったいっ、リサッ、喰うんなら喰え早く」


 そう言って俺は椅子から立ち上がった。簡単にリサの手がほどけて、俺は椅子から立ち上がる事が出来たんだ。


「あれっ、立てた、あれれっ? なんで」


「ローズを食べるなんて嘘よ、死んでも食べないから安心してね、ローズ」


 そう言い残すと、俺を置いてリサが部屋から走って出て行った。


「待てよっ、リサ」


 リサは玄関を通り越して左手の階段を上り、2階の踊り場のレースのカーテンを開いた。遅れて踊り場に着いた俺がリサの姿を見た時には、リサはベランダに通じるガラス張りの窓、ベランダに出ることが出来るように両開きの扉作りになっていて、枠組みがまるで鳥かごのように上部でアーチを作っている窓を開けて、外に出ようとしていた。


 鳥かごを開けたリサが次にする事は……


(大空に飛び立つ)


 雨風でどんどん濡れて行くリサ。


「お別れねローズ」


 リサが振り返って言った。リサの向こうのベランダに柵は無い。あと数歩でリサは向こうの崖に落ちてしまう。


「なんでだよっ、何で今なんだ。まだ先に一緒に行けるじゃないか」


「無理なのっ、リサには無理なのーーー」


 初めて聞く悲鳴のような叫びが俺の鼓膜に突き刺さった。


「どうして……」


「これ以上一緒に居たら辛いの、リサ壊れそうなの……ローズ、リサは自分が作られたリサだってわかってるから、だからもう壊れそうになってるって、リサが今のリサで居られるのはもう時間が無いってわかってるから、だからリサはリサのままの姿でローズの前から消えてお別れがしたいの」


(壊れそうっ壊れそうって、リサはロゼッタの事を何度も俺に言ってた……そうだったのか……リサは自分自身の事を俺に言ってたんだよっ。なのに何で何で何で何で何で何で俺は……)


「駄目だ、1人で行くな。俺も一緒に飛ぶ、俺はお前の翼だ、翼が無いと飛べないじゃないか」


「来ないで……ローズ」


 リサが後ろに1歩下がった。


「リサーっ」


 リサが掴んでいたガラスの窓枠から手を離した。よろけるようにそのまま後ろに倒れ込んで……


 俺はこの身体が動く限りの速さでリサに向かって走った。手を伸ばしたその先に両手を伸ばして、まるで捕まえてって言うかのようにリサが俺を見ている。


 そして俺も飛んだ。


 ベランダから飛び出して、俺はリサの胸の中に飛び込んだ。ギュッとお互い抱きしめて、支える大地が無い中で何とか顔と顔を寄せ合って笑った。


 リサの目から大粒の涙が空中に飛んで行く。


「雨だもん、リサ嬉しい」


 暗い雨雲の中を落ちて行く2人に恐怖など無かった。

 最後はリサの笑顔。ならば、リサにも俺の笑った顔だよなっ。落ちる途中で離れないようにキツく抱きしめた。


(今頃になって本当のリサの気持ちを理解しようと思うなんて遅かった。でも今はごめんは言わないんだっ)

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