83 美しき姉妹
「でねっ、あれは罠だったんだよ。だってこっちに来いって言うのにベランダから先は何も無いんだぜっ。勇気を出したらなんとかなるって、なんかそんな事を言われたかな。はいっ見事に落ちましたっ! それからパラシュートを忘れたスカイダイビングの気持ちを味わってる最中に気が遠くなって、ロゼッタの糸で落下が止まった時に意識が飛んだんだ」
モフモフうさぎがロゼッタに試された一部始終をラヴィに話していると、
「おっ、ロゼッタとリサは居ないのか。昼飯の用意が出来たぞ。食堂に集まるよう言ってくれって、ここには居ないんだな……先に行っておいてくれ、うさぎとラヴィちゃん」
マッテオさんが、リサとロゼッタを探しに部屋から出て行った。
「いいなぁ、モフモフさん。格好いいし」
「そういやラヴィちゃんは、初期装備の皮で出来た軽装だもんな。バリバリの聖騎士って装備はまだまだ先になるんだろうね」
「食堂って言ってたけど、隣かな、行ってみる?」
「そうだね、行こうか」
俺たちはマッテオさんが来た方に向かって行った。いい匂いがして来た。
(システム……なのか? 嗅覚までも再現出来るなんて……と言うことは味覚まであるのかも)
「ラヴィちゃん、匂う?」
「匂うね。シチューの匂いがする。凄いよな、食べたら味がするのかな」
「手で触ったら物を感じる、足も感じはある。でも身体の他の場所の感覚はほとんど無い。後は味覚か……」
「そういやモフモフさんって、結構ボロボロだったけど痛く無かったの?」
「いや、それが結構来たよ。実際の痛みではないけど、想像した痛みがシンクロした身体に逆流して染み込んでくるような……」
そんな事を話していると、長テーブルに料理が並んだ天井の高い部屋に着いた。
「なんか外が凄い音してないか? ロゼッタは嵐が来るとか言ってたけど」
「えっ、台所の音かと思ってたけど違うの? さっきまで天気良かったよ。モフモフさんが優雅に泳いでたじゃないか」
ゴォーーー
一瞬だが建物が風を切る音がした。
「そんなところに突っ立ってないで、席につきなさい。ほらリサッ」
「はいっ、お姉様」
ロゼッタとリサが、いつの間にか俺達の背後に立っていた。ロゼッタに促されて俺の側に来たリサは、クリムゾンのドレスで身を包んでいた。
ロゼッタの露出の多いドレスとは違って首元までぴったりと腰から上を覆う艶やかな生地は、リサの身体のラインを隠す事なく存分に魅力を振りまいている。
(リサって、わざと自分の美しさを隠していたみたいだな)
何か言って欲しげなリサが、期待した視線を俺に投げかけてくる。
(髪を下ろしたんだ。落ち着いた茶髪かと思ってたけど、少し赤色が混じっている。天使のリングがクッキリ見えてしっとりとしたロングヘアー)
「時間を切り取れるなら、たった今この瞬間が欲しい。リサ、とっても綺麗だよ」
固まってしまったリサの手をロゼッタが引いて行く。
「さあ、座りなさい。うさぎはそこ、ローズはここ。リサはもちろん隣ね。私は今からマッテオを手伝うわ」
厨房が奥にあるこの部屋は、天井が高いと言うよりも大きなピザ窯のような形になっていて、細く狭まった天井の中心に熱気を抜く天蓋が設けられていた。
目の前に並ぶのは、ゴロゴロ肉の入ったシチューとパン。
(間違ってもうさぎの肉じゃないよな)
長いテーブルを囲むように席が置かれていて、1番奥は多分ロゼッタ、そこからモフモフさん、マッテオさん、俺、リサという配置で席に着く。
「さっ、ようこそ皆さま。お腹が空いたでしょう、遠慮なく存分に堪能してくださいね。この辺りでは貴重なお肉を使ったシチューよ、お茶は食事の後でね」