81 仮面の下の素顔
「気がついているんでしょっ。黒うさぎ、寝たふりをするんなら、もういっそこのまま置いて戻ろうかしら……」
「あっ、いやっ待て、待って。ロゼッタ、なんか君が色々話し出すから起きるきっかけが無くて……」
「それで薄目を開けてわたしをジロジロ見て、あぁ汚らわしいわ、わたしの事をそんないやらしい目でジロジロと……」
両手で自分自身を抱きしめて、いやいやするロゼッタ。
「ちょっとリサに似てるな。その仮面が邪魔だけど」
「わたしに仮面を外せと言うの? どうして? 美人が好きなの? 可愛いから? 目の色がグレーだから? 今日の口紅は薄いピンクだから? えっ、わたしの柔らかな唇を奪いたいからなの?」
(さすがリサのお姉様、何言ってるのかわからん。リサと上手くやってるラヴィちゃんならなんて答えるんだろう? )
「鏡に映った仮面の姿の自分を見てさ、見た目が違うから着けた仮面の下の素顔はうつむいてしまう。そんなつもりじゃないのに、決して変わることはないのに」
「何を言ってるの。ちょっとふざけてる? でもいいわ、続けて」
(やべっ、歌の歌詞なのがバレたかと思ったぜ)
「今日が今日で無くて、明日が決めた明日じゃないからって、それでも終わらないって決めたのは自分。繰り返し繰り返しを続けて、それに気づいた誰かが行く先を教えてくれる、もしくは一緒に歩いてくれる。その時はもう仮面なんて要らないんだ。知らないうちに無くしてしまっていて、秘密は秘密でなくなって、さりげなく笑い合うんだ。それが今でも構わないだろう? 何故かって言われたら、それって素敵な事だからさ。仮面を外せよ、ロゼッタ」
ロゼッタが赤と黒の泣き顔の仮面をテーブルに置いた。
「風で飛びそうで邪魔だったの。だから外すの、見たければ見ればいいの、黒うさぎ。ここに服があるから着替えて……2階の空いた部屋で着替えてから1階の右のお部屋に来なさい。一緒にお茶を飲みましょう、もうリサも来ているし、ほら、あそこからこっちを見てるわ」
ロゼッタが指差す方向、崖に垂直に建つ白い屋敷の1階のガラス張りの部屋に2人を見上げるリサとラヴィが見えた。でもモフモフうさぎが見ていたのはロゼッタの素顔。美人で可愛いくてピンクの唇で、目はモフモフうさぎの方からは見えなかった。
「わたしは先に行くわ」
「いやいやいや、一緒にお願いします。また落ちるのは嫌っ!」
「手でも繋ぐ? 親子の様に、恋人の様に、他人の様に」
ロゼッタがモフモフうさぎの方を見て言った。
(目の色、グレーか。本当だった)
「俺もリサとラヴィちゃんの様に出来るかな?」
ロゼッタがモフモフうさぎの手を取った。
「聞かないで黒うさぎ。わたしはお前の声は聞きたくないの、それでも手は繋いでおくわ」
「どうして?」
「聞くなと言ったわ」
「だよな」
ラヴィがこちらを指さして何か言っている。リサが口に両手を当てて信じられないって態度であたふたしていた。
「あれは? どう言う事かな」
「わたしがお前をまた落とすかもしれないと心配しているのよ、今度は一緒に飛び降りてみる?」
「一緒にやるならもっと別の事の方がいいよ」
「そう、じゃあお茶に付き合いなさい」
「ははっ、そうだな」
ロゼッタがモフモフうさぎの手を引いてベランダから屋敷に入って行った。
「ロゼッタ姉様が笑っていたの、不吉なの」
「どうして?」
「うさぎ、黒うさぎ、いい気分なの……これ以上見たくないの。ローズ、お姉様が壊れたかもしれないの」
「壊れたって、どんな風に」
「……リサみたいに。ローズ」