78 ロゼッタの試練
2階に上がる階段の前で背後を振り返って、誰か続いて入って来ないか待っているモフモフうさぎに、
「グズは嫌いだから……エルフのグズはもっと嫌い」
と、2階から再び声が掛けられた。
(この声がロゼッタか、この館の主人だよな)
もう待てない、とモフモフうさぎは駆け足で2階への階段を登って行った。2階に上がると渡り廊下が真っ直ぐ伸びていて赤い絨毯が敷かれている。
光は天井にある四角い天窓から取り入れられていて、廊下の上の方をスポットライトのように照らしていた。
(まただ、この館の大きさと釣り合わないこの廊下の長さ……ラヴィちゃんの言ってた事、そうだ、これも俺がこうであると心のどこかで思っていること。ならばイメージイメージ )
2階の踊り場には大きな窓が南に向かって取り付けられていて、白いレースのカーテンが時折フワッと揺れている。ロゼッタはここには居ない。
「入って来なさい」
モフモフうさぎの正面から声がした。目の前には外に面した窓しかない、でも声はそっちからした。レースのカーテン越しには外は明るいばかりでよく見えない。
モフモフうさぎは風に揺れるレースのカーテンに近づいて、カーテンを開いてみた。ガラス張りの窓はベランダに出ることが出来るように両開きの扉作りになっていて、枠組みがまるで鳥かごのように上でアーチを作っている。少し開いた扉から風が入り込んでいた。
2階のベランダに出ると、手摺りが無いベランダはモフモフうさぎがそのまま踏み出せば、そのまま落ちてしまう状態だった。
誘われるようにベランダの端に立ってしまったモフモフうさぎは、まるで大空を飛んでいる感覚に陥った。なぜならば足元が切り立った崖、見下ろすとクラッとくる程の高さに突き出たベランダの上で、モフモフうさぎはバランスを取りながら前を見据えた。
バタンッ
モフモフうさぎの背後で扉が閉まる音がした。
「開けたんならちゃんと閉めなさいよっ」
モフモフうさぎが見据える先から声がした。
「さっき少し開いていたよ」
ガチャ
扉の鍵が掛かった音がした。
(引き返させないって事か、わかったよ)
「俺はモフモフうさぎ、あのさっ、改めて自己紹介だけど、ダークエルフの無職、戦士であり魔導士でもある。そういや 【 ナイト オブ ナイトメア 】なんて称号も持ってる」
「黒うさぎ……不吉、不幸の象徴、更に不潔。私の可愛いリサはそう言ったわね」
(確かに不潔なのは認めるけど、それ以外は黒猫の事だって)
「そんなところに突っ立っていないで、こっちまで来たら? あっそうそう、私はロゼッタ、岩隠れのロゼッタと呼ばれているわ」
モフモフうさぎの10m程先の空中に立って居る女。黒い髪が下から吹き上げる風に舞って、その度に顔に付けた仮面を手で押さえているのがロゼッタ、モフモフうさぎを招いているこの館の主人。顔は見えないが、スタイルの良さはリサと似ていて、背格好も同じぐらいだ。
( 惜しいなっ、仮面が邪魔。スカートだったらもっと良かったのに )