77 信頼に信頼で応える
マッテオさんがおれの背中をパンパンッと叩いた。
「だからラヴィちゃんなら大丈夫なんだよ。相手の中身を理解しようとする気持ち、されたいっていう気持ち、ちゃんと分かってるじゃないか。リサを頼むよ、例えリサがク……」
「ローズッ、急いでー。ロゼッタ姉様が待ってるの、ここの眺めは最高なのよー!」
(マッテオさんが最後に言おうとしていた事、聞こえなかったけど……そういう事か。リサは糸を操るもんな)
空を仰いで眉にかかる髪をかきあげた。
(俺の外見はどう見えているんだろう)
丘の上の白い建物の前に立ってリサがこっちに手を振っている。話の続きをせずに先に歩き始めたマッテオさんを追って俺も小道を登り始めた。
(信頼に信頼で応える。誰かに俺の信条は何かと聞かれたら、そう答えてきた。あの子が俺を信じているんなら、俺もあの子の魂を信じる)
「リサ、早いよ〜。風も強いし」
「うさぎは先に入ってる、ローズはリサと一緒に行くの」
「じゃあリサ、俺は? 入っていいのか」
「マッテオはロゼッタ姉様からお仕事のお話があると思うの、お肉を捌くお仕事なの、もうお昼だからご飯を作るお仕事があるの」
「おっ、そうか。腕が鳴るな、いやそんな時間は無いんだが」
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風が強いのには訳がある。巨大な火山の噴火口跡、カルデラと呼ばれるその地形には火口を取り囲むように外輪山がそびえ立ち、今は盆地と化した火口から吹き上げてくる風が天気が良い昼ごろから吹き始める。
ロゼッタの白い館はそのカルデラのエッジに建っていた。
「お邪魔しまーす」
玄関は開け放たれていて、1階はそのまま真っ直ぐにテラスまで続いていた。広いフロアは漆喰で壁を白く塗られていて、外から入る光をより明るく見せている。
モフモフうさぎは玄関から数歩中に入って立ち止まった。リサから先に行けと言われてそうしてみたが、ロゼッタが居るわけでもなく、返事も無い。
「左の階段を上がって来なさい」
2階の方から落ち着いた女性の声がした。
「あっ、まだみんな来てないし、来るまで待ってから……」
「そのみずぼらしい格好で私の館を歩きまわるのはやめて欲しいのよ。着替えを用意したから早く上がって来なさいっ、リサを殺したモフモフうさぎ」
モフモフうさぎの胸がドキドキしている。これまで事あるごとに死んで、死にかけて来たモフモフうさぎは、今回も自分に何かが起きるのでは無いかと疑心暗鬼で、更に "リサを殺したモフモフうさぎ" などと呼ばれて、この先に悪い予感しかしなくて戸惑っていた。