67 生き返ったうさぎ
「かはっ」
モフモフうさぎが息を吐いた。
「もう大丈夫」
優しい笑顔を浮かべて、リサが両手でモフモフうさぎの背中を撫ぜた。
「モフモフうさぎ、黒うさぎ、おあいこだから」
「…… リサ…… 」
うつ伏せになったままのモフモフうさぎが吐息のように漏らした言葉がリサには聞こえていた。
「モフモフうさぎ、黒うさぎ。リサとみんなとうさぎは同じになったの、みんなバラバラになったけど、みんなでくっついたから、リサもお前の中に居るから……」
「リサ、モフモフさんは?」
声を掛けたラヴィアンローズが、腕のくっついたモフモフうさぎを見て口をポカンと開けて固まった。
「リサ様、我等の不徳の致す所、その者に痛手を負わせたのは、我等で御座います。そやつがリサ様を手に掛けたと聞き……」
「やっぱりリサは死んだの? リサもみんなもバラバラになって消えてしまったの? 阿、吽、リサはここに居るの、よくわからないの」
「あー、実は俺もそうだっ。なんとなくだが俺、こいつに殺された覚えがあるんだ。だけど、夢みたいな記憶で本当かどうかはわからない」
「でもね、リサはうさぎのことを知ったの。ごめんなさいって何度も言ってるの。だから許すの、マッテオさんもついでに許すといいの。リサが許すのだからマッテオさんが許すのは当然の事なの……ねっ!」
(マッテオさんが、頷いている。どうやらマッテオさんはリサに弱いみたいだ。俺、なんだか今まで夢の中で動いていたような気がしている。だけどさ、元の姿に戻ったモフモフさんを見て、はっと我に返って客観的に物を見ている自分に気がついたんだ。俺はラヴィアンローズ、モフモフさんからはラヴィちゃんと呼ばれ、リサからはローズと呼ばれている。さっきまで何をしていたっけ? ……そうだっ、マッテオさんの娘さんを救いに行っている途中だったんだ。じゃあなんでモフモフさんがこんな所で死にかけていたんだ?)
「リサ、モフモフさんはもう起きれるのかな?」
(なんでこんな事になったのか、モフモフさん本人から聞かなきゃ)
モフモフうさぎの顔を、リサは斜めになって覗き込んだ。
「目が開いてる、でも、モフモフうさぎは泣いてるよ」
それを聞いた吽が阿の方を見た。
「最後の一押しが必要であるな、兄者」
「輪廻転生とはこの事よ、弟者。全てが失われたはずが、全て元に戻っている。失われた物は無く、むしろ得た物の数が多いとは、このうさぎは果報者よのう」
「我等も果報者よ、兄者。石像として動かぬばかりであったのが、見よっ! こうして動いてあるではないか? これを果報と呼ばずして居られようか」
「然り、ならば相応の礼をせねばならんな。最後の一押し、受け取れっ我等の力」
阿と吽はその筋骨隆々な上半身から絞り出すように力を手のひらに溜めて、それをモフモフうさぎの体に押し付けた。2体の金剛力士像の手のひらはとても大きくモフモフうさぎの体が隠れるほどだった。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ喝っ! !」
気合いと共に、ほとばしる閃光がモフモフうさぎの体に走って、どくんっと体が揺れた。引き裂かれた服は別として、体は完全に治ったモフモフうさぎが身を起こした。