66 モフモフうさぎ、黒うさぎ
「待て、待てっ」
ドタバタと、マッテオが走って来た。
「これで身体の傷口と、手の方の繋がる場所も洗い流せっ、とにかく出来るだけ綺麗にするんだ。肉の扱いは俺に任せろっラヴィちゃん」
マッテオは境内の右手にあった湧水から、備え付けの桶に水を汲んで運んで来ていた。
「ありがと、マッテオさん。じゃぶじゃぶ洗う? 」
「いや、まず身体の方に流しかけて、それから手の方を浸けて洗うんだ」
そう言いながら、マッテオはモフモフうさぎの右肩と左手の肘の部分に水を流しかけた。ラヴィアンローズがその後、桶に手の方を浸けて洗ってそれから身体に添えた。
「繋ぐわ、リサの糸で繋いでいくの。みんなの力をリサの糸で流していくの」
リサの身体を包む薄緑のオーラに黄色が混ざって強く光を増した。リサの力、それは命を紡ぐ糸を操る力。本来のリサは傷を癒し、命と触れ合う唯一無二の糸の使い手であって、戦いの中で傷つけ合う力として輝く存在では無かった。
(黒うさぎ……触れて気が付いたの。黒うさぎは私を、私とみんなを消し去った。みんな切り刻まれて、私もバラバラにされて消えてしまったはずなの。でも、でも、バラバラになっているのは黒うさぎの方。黒うさぎはローズの友達、だから助けるの。リサの胸に刻まれた記憶は、みんなの悲しい最期の声。おかしいな、黒うさぎ。みんなは、私は元に戻って、なのにお前は逝こうとしている。どこで入れ替わったの? 私を戻したのはお前なの? 戻って来てリサにわかるように話すの、リサは知りたくなったの……)
「このままでは、終わらせないから! ローズ、もう1回なの、さっきの魔法をかけるの。せーのでやるの」
「わかった、行くよリサッ」
ラヴィアンローズが目を閉じる。目を閉じた暗いまぶたの裏に呪文が浮かび上がり、それは声となり復活の呪文が発現する。
⌘この者に流れし命を我は再び結ぶアナヴィオスィ⌘
リサとモフモフうさぎの足元から金色の魔法陣が浮かび上がる。魔法陣は地面から浮き上がると、グルリと回転しながら2人を金色の光で包み込み、リサとモフモフうさぎを通り抜けて静かに上空で消えた。
◇◇◇
(それは誰かの為? ……プラットホームで電車を待つ自分がいる。自分を守る為……沢山の人が居て、でも望んでいた場所は……この街なのか? いつもと変わらない電車の中から見える流れる景色は……窓の外のビルが消えて、何もかもが消えて、花が咲く野原が広がって……立ち尽くす女の子が居る。悲しい叫び声が聞こえる、あの子の声? 胸に刺さって痛い……耐えきれなくて窓の外から視線を戻すと、目の前にポニーテールの女の子が居た。俺の事を見つめている、何か言っているのに聞こえない。君の声が聞きたい……なんて言ってるんだ? ・・く・ろ・う・さ・)
「黒うさぎ」
こくりっと、ポニーテールの女の子が頷く。
「すまない」
とても悲しい気持ちが襲ってきて、頭をさげて謝っている自分が居た。
「君の声も聞きたい」
ポニーテールの女の子が目を閉じて言った。
「もう1度初めから、リサは弱いから、今度は優しくしてくれないと、リサ、ちょっと人見知りだから、でも、でもね、リサは、リサは君を強く想ってるよ、リサは本当の君を知ったんだよ、だから寝ちゃ駄目。その声を、本当の声を聞かせて」
◇◇◇
追加情報
回復系の魔法である ⌘アナヴィオスィ⌘は、満タン状態のMPから、1残して全てのMPを消費する特異な魔法の1つで、ジャンルが違うが隕石を落とすメテオンと魔法のランクは同じである。
何故それをラヴィアンローズが使えたのか?
それはこのクエスト限定のルール、聖騎士に追加された魔法だからだ。このクエストをクリアすれば所得出来るというボーナス的なこの魔法は、このクエスト自体をパーティで挑んだ上で、パーティーメンバーに使用する場面が必ず有るだろうという、設定上の予測から実装されたものだった。
ちなみにこのクエスト、推奨ランクがLV90以上で、ソロでのクリアはまず無理とされてある。
今回、設定自体が激甘であるのと、全く調整されていない白紙の状態が功を奏して、なんとかラヴィやモフモフうさぎは進んでいるが、彼らのプレイデータからこのクエストの内容が変化していくのは間違いないだろう。