63 リサふたたび
(少しぐらい足掻きたいよ……くそっ、ライジングサンもこんな時には出てきやしねぇ)
ブンッ
残像すらも残らない速さの巨大なこぶしがモフモフうさぎの胴体に叩きつけられた。モフモフうさぎには、古代竜に食いつかれるような恐怖は無かった。ただし、痛みは無い……はずのこの世界で殴られるという感覚の逆流はまたしてもリアルのモフモフうさぎを襲ったのだった。
「うぅ、えっ、えぇ、く・る・し・・ゲホッ」
グニャリと曲がった両足、左腕は肘から先が千切れて無くなってしまっている。突っ伏した地面に口から血が流れて血溜まりとなり、モフモフうさぎにこの世界での死が迫って来ている。
「まだ生きておるか……」
「であるな」
近づいて来た[阿]、[吽]が呻いたモフモフうさぎを見て言った。
「無念とは何か?」
「無念とは、心残りである」
「無念とは何か?」
「無念とは、モフモフうさぎのことのようじゃ」
「無念とは何か?」
「ひと思いにこの者にとどめを刺さねばならぬ我等の事じゃ……」
2人の金剛力士が合掌をして、モフモフうさぎの側に並んで立つ。
「ふんぬっ」
[阿]が気合を込めて足を振り上げた。一気に踏み降ろせば、モフモフうさぎの終わり……
「さらば、うさぎっ」
「駄目ーーーーーーーーーーーーーー」
耳にキーンと残るような、鼓膜を揺さぶり聞く者の意識を飛ばす程の叫び声が、寺の境内に響いた。
「やめてーーーーーーっ[阿]、[吽]、リサはその人を助けるのっ、助けるんだからっ」
石階段を登り終えた場所に姿を現したのはリサ、そしてモフモフうさぎに向かって走り出すラヴィアンローズ、巨大な2体の金剛力士を見てびびるマッテオの3人だった。
耳に心地よい声が響いて[阿]は、踏み落とそうとした足を留めた。
「なんぞ、今なんぞ聞こえたかや?」
「兄者、リサ様でござる。な、なぜに、あそこにリサ様が」
モフモフうさぎのあまり聴こえなくなった耳にも、あの甲高いリサの声が聞こえた。だが失いかけの意識の片隅に届いた声は、モフモフうさぎにとってはあの世からの呼び声に聞こえて、ぼやけた視界の暗がりに彼の意識は落ちていった。
「モフモフさんがっ、あぁぁぁそんなっ、うわっぐちゃぐちゃ……死んじゃうっ死んじゃうよっ」
「あれって、ローズの?」
「友達! リサと同じ大事な友達なのっ……」
「わかった」
「駄目ーーーーーーーーーーーーーー」
リサがラヴィアンローズの慌てた様子を見て、即座に叫んだのだった。