61 金剛力士 [阿]
「いざ尋常に」
石階段を登り終えた場所は、いわゆる寺の境内と言われる場所だった。大きな日本の寺のような建物がその境内の奥にあり、右の方にはそれよりも少し小さめな平屋の日本家屋が建っている。
「覚悟は良いな、うさぎ。リサ様の無念、しかと受け止めるがいい、[阿] 参るっ」
ズンッ、ブンッ
[阿]と名乗った兄者が、右足を踏み出しモフモフうさぎに向かって巨大な左手を棍棒のように打ち付けた。
(うわっち、あの握った拳がまともに当たったら……電車に正面からぶち当たるのと同じ感じじゃねえか! 風圧が半端ねぇ)
後ろに跳びのきながら、どう戦うか考えるモフモフうさぎ。[阿]の拳を、躱す事は出来たがギリギリだった。それ程[阿]の拳は速い。
躱したモフモフうさぎの頭上からハエ叩きのように[阿]の鉄槌が落ちて来る。
ドンッ
音がした後に拳はもう既にその場所には無く、地面がガッツリめり込んた跡が残っていた。巨体でありながら軽々とその身体を動かす[阿]、足元を見れば踏み込みまでの動きに音が無く、それは武道の達人の身のこなし。殺気すら感じさせない……
(余裕がねぇ、俺は素人、単純にこの身体が動いてくれているだけだ。どうするよーーー)
ブーンッ、グゥワァァァンッ、ビシィズンッ
腕よりも太い脚で腰を落とした回し蹴りが繰り出され、腕よりもリーチが長い攻撃を避けるにはモフモフうさぎは飛び上がるしか無かった。そこにつま先を真っ直ぐに伸ばした回転上段踵落としが繰り出されて来る。空中に飛び上がったモフモフうさぎに逃げ場は無い。
モフモフうさぎの頭上に黒い影が迫った。
(……速っ)
バンッバンッバンッ・・
空中で可能な限りの身のこなしで、[阿]の踵落としを避けようとしたモフモフうさぎが、地面を跳ね飛んで転がって行く。
地面に打ち付けられて、一瞬意識がフェードアウトしかけたモフモフうさぎだったが、頭を振って意識を保つ。転がった地面から顔を上げて[阿]を探すと、離れた場所でゆっくり身を起こしているところだった。
(右腕が無い……)
モフモフうさぎの右肩から先が千切れて……いや、削り取られて血が噴き出していた。バランスが取れないまま片膝をついて立ち上がるモフモフうさぎ。
「真っ二つにならんかっただけ、褒めてやるわ」
(目の前が暗くなって来る。意識を強く持たないとぶっ飛んでしまいそうだ)
「危なかったぜ、死んだかと思ったよ」
「手加減してやっただけだ」
「わざと脚の軌道をずらしたんだろっ」
「わかったのか?」
「直撃モードだったじゃねーか、なんでだよっ」
「そんなにすぐ死にたいのか?」
「いたぶるつもりか?」
[阿]が、モフモフうさぎに近づいて来る。
「我らを見くびるなよ、いたぶる、弄ぶなど半端な事はせぬ」