59 金色夜叉のはずが
(ツルピカイエローで頭はゴールド、後光が差してありがたやって、ただの嫌がらせだけどねぇ〜)
「あ、あのうですね、先程申したショッキングピンクに対抗し得る色というものがあるとすれば……イエロー、しかもただのイエローではなくて艶っ艶にツルツルで光を浴びればキラリッと反射するようなイエロー……即ちツルピカイエローしか無いわけで……」
「して、ツルピカイエローとショッキングピンクはどちらが強いのであるか? うさぎ、当然先程言った通りショッキングピンクの方が上であろうな。最強の色であるからな」
「うさぎーーーーーっ! 」
「いやいやいやいやいや、ちょっとお待ちをーーー、」
兄者が拳を握って振り上げた。握り拳が1m近い大きさ、殴られたら一瞬でミンチ決定!
「聞いて下さいっ、まだ話しは終わって無いっすーーー! ツルピカイエローだけなら、確かにショッキングピンクにインパクトは負けてしまいますがっ、ゴールド、全ての競技において1番に与えられる金色もあるでしょう、頭のてっぺんに。金は金メダル、1番にしか与えられない至高の色。つまり兄者さまが多分1番って事になるんですよね……」
(上手くいったかな? 弟者が今度はゴネたりして)
「つまり、結局はわしの方が上という事をうさぎは言いたいのだな」
「はっはい、まるで後光が差した金色夜叉のようです。真っ直ぐ一途で裏切りを許さない美しくもあり、恐れの対象でもある唯一無二の存在、それが兄者様でしょう」
「という事だ、弟者」
兄者が振り返って弟者に言った。
「ふふっ」
弟者が堪え切れない笑いを洩らした。
「何が可笑しい? 弟者」
「いや兄者、よく聞け。ショッキングピンクの説明は理にかなっておったわ。だがしかし、兄者の "ツルピカイエローちょっとだけ頭がゴールド" の取って付けたような説明を鵜呑みにするのは流石にオツムが弱いとしか言えぬのでなぁ、そうであろう、うさぎよ」
(げっ、兄弟揃ってお馬鹿じゃ無かったの? )
「まず、ツルピカとは兄者の頭を言っておる。見ての通り髪の無い見事なツルピカじゃ。頭がゴールドとはツルピカの頭に光が当たれば反射するであろう、それが金色なら更なる反射を期待出来るわ、つまりは兄者のツルピカを強調するには最適な色というわけよ」
ドシンッ
兄者が足を踏み降ろした音がして、地面が揺れた。
「ぐぬぬぁぁ、うさぎーーーっ! ではイエローにしたのは何故じゃっ」
「それすら判らぬか? 兄者、イエロー……イエローと言えばカレーライスではないか。カッカッカッカッカレーである。大人も子供もみんな大好きカレーライス! 兄者は人気者でござるなぁ」
プツンッ
って、音がした気がする。
バチバチッ
と音が聞こえてきて、熱風の蒸せるような圧力が門の方からモフモフうさぎを襲った。
「熱っ、うえぇ、鬼・・赤い・・燃えてる・・」
「グオォォォォォー」
炎に包まれて叫ぶ真っ赤に燃える鬼、兄者だった仁王像の真の姿が門の内側にあった。黒かった鉄柵の門が熱で真っ赤になってグニャリと曲がり、石柱からも黒い煙がモウモウと立ち昇っている。
「熱熱熱いっ。弟者、兄貴をどうにかしてくれー」
「お主が火をつけたのじゃ、カッカッカッカッカレーライス、ツルピカイエローカレーライスッ」
グオォォォォォー
「やめろぉぉ、歌うなぁぁお前が煽ってんじゃねえかよーー」
後退りしながらモフモフうさぎは叫んだ。