54 薔薇とローズとリサ
天井にまで蔦が伸びて、その蔦からピンクの小さな花の房がたくさん下に伸び、その花房の隙間から陽の光が差し込む。
(あの花の色が紫だったら、藤の花みたいだけど、こっちの方ずっと綺麗)
モードチェンジしたラヴィアンローズがステップを踏みながら両手を後ろに組んで花々の間を進む。
「こんにちはっ、素敵な色ね」
「わぁっ、こんなにちっちゃいのにいっぱい集まって大群の花を咲かせて、しかもいい匂い」
「はじめましてっ、ラヴィアンローズですっ。みんな艶っぽくて、みずみずしいわ。あぁ、身体が満たされていくみたい」
花にいちいちあいさつをしながら、笑顔を絶やさないラヴィアンローズ、花の回廊の真ん中辺りで緑のアーチをくぐると、そこにはリサが居た。薔薇に囲まれて楽しそうに話をしているようだ。
ラヴィアンローズは色とりどりの薔薇の園に入って目を奪われた、満開の薔薇、強い……この花の回廊に入った途端に感じた花の香り。胸いっぱいに吸い込んで、
「こんな素敵な薔薇、生まれて初めて。初恋の甘い香り、成熟した大人の色香、麗しい乙女の通り香、染まってしまいたいわっ。この世の楽園ね……はぁ」
「えっ」
ラヴィアンローズの声に気づいて、振り返ったリサがラヴィアンローズを睨む。無断で入り込んだ害虫は駆除しなければならない。しかし薔薇の花から呼びかけられたのか、リサは目を離して花と話しだした。
「えっ、うん。えっ? 本当に? そうなの、あの子みんなと同じ薔薇なの、そうなの! 薔薇、薔薇、薔薇、ローズ、ラヴィアンローズ……いい響き。みんなのことをそんなに褒めてくれた。可愛いって……綺麗だって……素敵だって。うんうん、よかったね……ちっちゃな子達もみんなみんな褒めてくれたって喜んでるんだ。嬉しい、リサ、とっても嬉しい! リサとってもとっても嬉しい!」
鋭い目つきが柔らかく解けて、柔和な可愛らしいポニーテールの女の子に戻ったリサが笑顔になった。怖い顔より100倍可愛いリサ、いつもはきっとそんな顔をしているんだろう。
少し開けて柔らかい陽射しと暖かい空間、咲き誇る薔薇とラヴィアンローズ。見た目は男、頭脳はネカマ……じゃなくて心は乙女、危ない危ない、何かをパクるとこだった。素直な気持ちを花たちに伝えて辿り着いたこの場所で、リサと出会った。
「こんにちは、あなたがリサさん?」
「ええ、ローズ、いい名前、あなた良い人なの、とっても良い人なの」
「んっ、私の名前を知ってるの? リサさん」
「リサでいいの、リサって呼んで。みんな友達なの、リサの大好きな、大事な友達。ローズの事をみんな好きだって言ってるの、だからリサもローズの事が好きになったの。ローズはリサの事好き?」
「大好きよっ、こんなにお花を大事にして、お花が大好きでみんなが素敵に花を咲かせているなんて、リサがいるからでしょう。リサはお花と話が出来るの? だったら伝えて。ラヴィは、ローズは、みんなに心を洗われたわ。みんないい匂いがして、みずみずしくって明るくって、気取らない、それでいて素のままで美しい。ありがとう、大好きって」
リサが目を潤ませてラヴィアンローズを見ている。
「ローズ、リサが言わなくてもみんなにはちゃんと聞こえてるの、ローズは友達だから、みんなの友達だから」