51 大切な何か。これも加護!
「動くなっ! ! 刃が深く入るじゃねえか」
(近づいたらあの肉切り包丁で切り掛かられそうだよ)
マッテオさんがあんまりにもリアルな動きをするので、目の前にエルフの女の子が横たわっているみたいな感じがする。生々しいサイコな光景が目の前で展開されている、絶対夢に出て来るインパクトがあった。
「マッテオさんっ……マッテオさんっ」
「……おっ、ラヴィちゃん」
座り込んで肉切り包丁を変な角度で持った状態のマッテオさんが、元に戻った。
「ビックリしたー、今のがそのまんま行われたって事なんだ」
「やってる最中はもう他の事は何も考えて無いんだ。完全になりきって……何になりきってって言われてもわからないんだが、見ていてどうだった?」
「完全にサイコパス、頭イカれてたよ。名前をつけるなら、切り裂き魔マッテオだね。少なくとも……美しく無かった」
「すまない、感謝するよ。なんだか泣きたくなるよ、どうしたらいいんだ? 今まで真っ当に生きてきて、なのに俺の……俺は」
「マッテオさん、心配無いって断言はしないけどさ、大丈夫だよ。俺がなんとかする、これからしていくつもりだ。まだ、何も成し遂げてはいないけれど、これからだ、全てが変わってしまうそんな事が起こせて、起きてしまうこの世界で、この街で、一緒に手を取り合って生きていきたい」
俺が座り込んでるマッテオさんに、手を伸ばした。マッテオさんは俺の手を取ってくれたんだ。
「ありがとう、ラヴィちゃん。俺なんかに手を差し伸べてくれて」
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新規加護所得
大切な何か+1
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(新しい加護を所得したって目の前に薄く表示された。"大切な何か" なんて、加護の名前につけられているけど、これがなんの加護かなんて聞かなくてもわかる。マッテオさんと俺との間に生まれた……友情、信頼、みたいな気持ち。多分間違ってないと思うよ)
マッテオさんは、俺の手をギュッと握って立ち上がると
「案内するよ、ラヴィちゃん。付いて来てくれ、俺だけが行ったらあの子が絶望しちまうかもしれないからさ。よかったらラヴィちゃんから説明してくれないか? まだ俺、自分に自信がない。ちゃんと動けるのかどうかも」
「わかった。じゃあその肉切り包丁は置いて来てくれない? ちょっと怖すぎるよ、それ」
「あぁ、これか? うーん……肉屋の俺と肉切り包丁は一体だからなぁ、なんとも出来そうにない。すまんな、例えばここにこの肉切り包丁を置いてどこかに行っても、そのどこかで俺がマッテオと認識された時点で、俺はマッテオ、肉屋のマッテオで手には肉切り包丁が現れるって次第だ」
「なんで、すごいよくわかってるんだね。NP・あっ、いや、」
マッテオさんが頷いている。
「この街の人間がそれで呼ばれる事が大嫌いなことを、ラヴィちゃんはもう知っているみたいだな。俺たちからすればな、ラヴィちゃん、ラヴィちゃん達はいきなり俺たちの住む街に現れた異邦人だ。よそ者だからって毛嫌いするわけではないが、俺たちの事を人扱いしていないのは良くねぇよ。みんな元々この街で暮らして来た連中だ、普通の人間、まあ別の種族もいるけど、あんたらと同じ人間なんだ。そこんとこをわかってもらいたいんだよ」
「あっ、はい」
「大丈夫だっ、そんな顔すんなよラヴィちゃん。あんたは大丈夫。行こうぜ、あの黒い扉から結構先に行かないといけねえんだ。急ごう!」