50 懺悔、残酷、どちらもマッテオ
「ラヴィちゃん、あんたの言葉で目が覚めたよ。俺は言われるがままに、俺の娘みたいな幼気な女の子をこの肉切り包丁で……」
(まじかっ! あんた、そなヤバそうな包丁で女の子を切ったのか?)
「ゴクリ」
と、俺は唾を飲み込んだ。
「やったのか、そいつで……」
「やっちまったんだ、上っ面だけで死んじゃいねえよ、でも痛かっただろうな、怖かっただろうな……あっ、ちなみにこの世界に痛みは無いけど」
「この女の子って、まだこの写真のままでどこかに縛られているのか? というか、ロビーちゃんじゃ無いんだな」
マッテオは頷く。
「あんたが助けに行くようにって、この写真を渡しに来たんだ」
「なんで? このエルフの女の子は、あんたがやったんだろう」
「逆らえなかったんだ、と言うか逆らうって気持ちがそもそも無かった。指示されたらそのまま動くのが俺たち、この世界の俺たちの決まりなんだよ」
「じゃあ、この女の子も誰かに指示されてあんたに切られたって事なのか?」
「そうだと思う。少し抵抗したけどな、最後は諦めたみたいだったよ」
「マッテオさん」
俺は言わなきゃって思ったんだ。
「その女の子、多分何も知らされていないと思うよ。知っていたら抵抗なんてしないし、我慢はするけど諦めたりはしないはずだ。きっと今、今この瞬間にも辛い思いの中にいると思う」
「やっぱりそうなのか……さっきからラヴィちゃんと話していて、色々おかしな事に気がついているんだ。俺、その写真の女の子に酷い事を言ってた……」
「酷い事って?」
「勘違いしないでくれ、普段の・・本当の俺はこんな事は言わないんだ。誰かに言わされた、そうとしか思えない……一語一句繰り返す事が出来るよ、頭に埋めまれたみたいに、今でもはっきりと浮かんでくる」
マッテオさんが、辛そうな目をしている。だけどいきなり目つきが悪くなって肉切り包丁を構えると、マッテオの極悪非道劇場が始まった。
「大人しくしろっつってんだろうが、このアマ。逃げても無駄なんだよっ、オラァ、この部屋で行き止まりなんだよっ。お前はもう終わってんだ、黙って切り刻まれろや。うるせえんだよ、訳なんてねえよっ」
ここで蹴り上げるような仕草を、マッテオさんが俺の目の前でやった。
(うわぁ、あの角度、転んで倒れた女の子の腹にダイレクトに蹴りを入れたっぽい)
「へへっ、やっと大人しくなったな姉ちゃんよっ」
今度は足で女の子を転がし仰向けにして、ロープで女の子の手を背中で結ぶ仕草をする。少し移動して、もう一度結んでいる。多分脚を結んでいるんだ。
「もう逃げれねえなぁ、姉ちゃん。殺しゃしねえよ、ただな、チクッとするだけだ。この肉切り包丁でお前の柔肌の表面を、スーーっとなぞるだけ。心配すんなっ、肉切り包丁の扱いには慣れてんだ。だって俺様は肉屋のマッテオだからなぁっ」
マッテオさんは、膝をついて肉切り包丁を目の前の空間の中で動かし始めた。
「動くなっ! ! 刃が深く入るじゃねえか」