83 魔導師ゴーズ
沈んだ冷たい女の声のアナウンス。後ろで風がビュービューと吹いている音がする。いったいどこからアナウンスをしているのだろうか?
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「寒いっ、ご主人様の意地悪。アンナは薄着なのに外でフロアの案内をしろなんて。ここって雲の上なんですよ。とっても風が冷たいのに……この後きっとご主人様が温めてやるとか言って来るんです。アンナは優しい嫌がらせには負けないんだから」
ゴォーーー
時折爆風が吹く。マイクを握り直してアンナがアナウンスのスイッチを押した。
◆◆
【冒険者の諸君、建物に潜む敵も冒険者である。お前達を誰かが見つめている。生き延びよ、そして登って来るのだっ。この町のどこかに上の階層へ登る階段がある。生き延びて階段を探し出し、時間内に町を脱出せよっ。残りの時間は1405秒だ。ただし町に隠された宝箱を開けて怪物を倒すこともありだ。もしも町の宝物を守る怪物を倒せたならば、残りの全員の上の階層へ登る権利を保障する。ああっ、寒っ……さっさと終わらせるのよっ】
「何だ今のアナウンス、最後の方が変じゃなかった?」
「ちゃんと誰かが話していたみたいね。雑音が酷かったけれど、外なのかしら」
黒い瞳の狩人の町のどこかの路地に僕達は居る。周りをそこそこの高さの建物に囲まれて、中心部っていうのがどっちの方向なのか僕には分からない。ただしイーニーが居る、イーニーはこの町の迷路のような道が全て見えているんだ。
「 そういや怪物とか言ってたよな。イーニーはどこに怪物が居るのか見える?」
「待ってね、探してみるから」
◆◆◆
足が無い。黒い衣のような残像を残して長髪の魔導師が長さ4mのマジックワンドを持ったまま移動を繰り返している半円状のステージは、放射状にグレーの滑らかな石が敷き詰められている。
ステージの中央に金色に輝く宝箱が鎮座していて、それを守るのが怪物と呼ばれた黒い魔導師ゴーズだった。
戦闘特化型AI搭載モンスター、通称ボスキャラ。瞬間移動を繰り返す為に、さっきまで居た場所から姿が消えると、次にどこに居るのか探さなければならない。探す暇があればの話だが。
偶然にもステージの近くにPOPした冒険者達が居た。ステージの後ろには壁が広がり入り口らしき門が一つだけあるのが見えた。
ステージの周りは町の他の場所と同じような崩れた建物や瓦礫の合間を縫う小道が続いている。身を隠して魔導師ゴーズの動きを分析する冒険者の後ろには、わらわらと他の冒険者が集まって来ている。みんなアナウンスを聞いていた、ここは黙って共闘すべき。さすがに生き残って来た冒険者達のマインドレベルは高かった。
言葉の通じない中で、身振り手振りの作戦会議が始まる。残り時間が刻々と少なくなっている。弓と遠隔魔法が使える冒険者が前に並び、聖魔法が使える聖騎士がその後ろに並ぶ。おそらく物理的なダメージは与えられないタイプに見える魔導師ゴーズに対して、近接戦闘特化の冒険者達は、周りに湧いて来る別のモンスターから彼等を守る役目を買って出た。
黒い衣のような身体、それだけを見ればあいつは闇属性。対抗する属性は聖属性、光属性、無属性。それぞれが得意な攻撃方法を準備する。
バーンッ、バーンッ、ズガガガッ、ビシュッビシュビシュビシュ、ボカーンッ
突然別の場所に居たであろう冒険者達の攻撃が始まった。
── タイミングの良い陽動だった。
魔導師ゴーズの姿がステージの右手へ移動した瞬間に、こちらの魔法使い達が一斉に攻撃魔法を撃ち込んだ。




