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81 重低音のリフを刻む

 世界各地に現れた試練の黒い塔(ブラックオニキス)は、入り口こそ違ってはいるが中に入れば一つになるという集合ゲートが採用されていた。つまりどこの塔から入ろうとも中は同じ場所であり、集まる人の数だけが増える事になる。


 ◆


 試練の黒い塔(ブラックオニキス)の中でも最大の高さを誇る、ノーガンミール南部に現れた塔の最上階。並んだモニターの前で、真っ黒な冒険者達が殺し合うのを見ながら皇帝バッドムが召使いのエルフ、アンナを抱き寄せた。


「へへっどんな気分だっ? なあアンナ、お前はどう思う? 強え奴が生き残るって言うより上手いことやった奴が残ったみたいじゃあねえか?」


「私が見るに、要領が良くて更に強い装備とスキルを身につけている奴が生き残っていると思います」


「俺もそれ思った。防具とかにエンチャントしてる奴は元々強えしよっ、遠隔魔法の強い奴とか範囲を撃てる奴は結構汚いやり方してたもんな」


「ああっもうご主人様、やめてくださいっ。お話の途中ですよねっ、この手はダメなのですっ」


「ちっ、反抗すんのかぁっ! アンナ」


「反抗いたしませんっ。拒絶はいたします!」


「てんめぇー、どこでそんな事を覚えて来たんだっ」


「あっご主人様、それから私が見ていた中で異様に強いキャラが居ましたよ。一応お伝えします。アンナは一応伝えましたから……」


「なんだそりゃ? 誰だよそいつ」


「黒塗りの姿でしたからはっきりとはわかりませんが、女。それと雑魚どもの影から姿を現わす女。二人は仲間のようでした。離れていてもなぜか敵を切り刻む能力で誰一人寄せ付けない強さを持っていました」


「おいっ! なんでそれをそん時言わなかったんだ。それ真凛と奏音じゃねぇか、何やってんだおめぇっ」


 スタンッ


 再びアンナを捕まえようとしたバッドムの手を(かわ)したアンナが、背後に宙返りをして皇帝バッドムの正面に立った。


「何だよその顔」


「軽蔑、蔑み、侮蔑、侮辱、嘲弄、その他を含む顔です」


「おめぇだけだぞっ、んな我儘(わがまま)言う奴。何だよっ悪いのか? 俺が真凛と奏音って言ったらよぉ」


「アンナが居るのに」


 皇帝バッドムには聞こえないように小さな声で吐き捨てて、アンナは奥の扉に飛び込んで姿を消した。扉の先はバッドム帝国の居城に繋がっている。


「AIのくせに反抗しやがってよ。人間の女の方が良いって言ったのが気にいらねぇのか。まぁいいわっ、とにかく真凛と奏音が居るんだな。よしよし計画通りだぜっ、ついでに他の奴らも入ってりゃ完璧なんだけどな。あいつらで殺し合いしてよっ、最後まで生き残ってりゃ俺様が可愛がってやるしなっ、うけけっ」


 生き残りの冒険者達が居るフロアが第二階層に固定されるのを確認すると、皇帝バッドムも部屋の奥にある扉へと向かった。試練の黒い塔(ブラックオニキス)は五階層まである。試練を突破してここに冒険者が辿り着くまでには、まだまだ時間があった。


「真っ黒で蟻ん子みたいで見るの疲れたっ。ビールでも飲んでこよっ、お尻プリプリのアンナちゃんはどこに逃げたんだっ! 今度捕まえたら許してやらねぇからなっ」


 最上階のフロアも巨大なスペースである。全壁面をモニターと変化させて一階の様子を見ていた皇帝バッドムが、次々と画面を閉じて行く。拡大をせずに全域を見ていた皇帝バッドムは、ウジャウジャと動き回る小さな黒い影を見る事に飽いて来ていた。



 ◆◇◆



 冒険者達が身構えるフロアが第二階層に着いた。エレベーターのように上昇していた床からの持ち上げられる感覚が消えて、それと同時にBGMも歌詞の無いへビーメタルに変わる。

 ディストーションの効いたエレキギターと重低音のベースがバスドラムに重なり、否応無しに対人戦闘へのテンションが上がる。圧倒的な音圧で刻まれるリフは、冒険者達の体を揺らし、現実世界に残した体の心拍数を上昇させて行く。


 ギャィ──ン


 激しく歪むギターのフレーズがハーモニクスと共にチョーキングされて悲鳴をあげた。それが合図となり、第二階層の試練という生き残りをかけた殺し合いの時間が始まった。



 ◆◇◆



 二階層は夜の街である。ネオンがきらめき、時折火花がバチバチと音を立てて散る。まだアンタレスには登場していない現実世界での少し昔の街の風景。コンクリートのビルやアーケードの両側に並ぶ商店街、細く薄暗い路地の奥は暗くてよく見えない。何故か通りにマンホールもある。街を照らす明かりはボンヤリとした光で、LEDの普及する前の蛍光管が使われているようだった。


 ── 影が多く隠れ場所の多いステージ


 試練の黒い塔(ブラックオニキス)第二階層、【黒い瞳の狩人の街】が始まった。

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