45 クエスト[花の回廊]⑤
シュルシュル
と、リサを包んでいた茨の繭が解けていく。跳ね飛ばされたモフモフうさぎは花の回廊の通路で、周りの植物や自身に顔を向ける花々に注意を払いながら、リサに向かってダガーを構えた。残りのダガーは8本。
(この先も戦いが続くならこの飛び道具は出来るだけ回収しなければならない)
そんな事を考えながら、血が滲んだ手足の感覚を……
(おいっ、まだやっているのか?)
(ライジングサンか?)
(所有者よ、お前の血が我に降りかかり目が覚めたわ。我に敗北はゆるされぬ、所有者よ……モフモフうさぎ、おぬしは血を流し、あやつは未だ健在とは……茂樹今生の辱号である)
茨の繭の中から、リサ、いやリサだったはずの物体の姿が現れた。
(蜘蛛か?)
モフモフうさぎがそう思った途端、その蜘蛛は壁を伝い一気に天井まで這い上がり、天井の幾何学模様の骨組みに8本の脚を掛けてモフモフうさぎの斜め前方で止まった。
真っ黒な身体で尻の部分に黄色の横縞模様が入っていて、顔だけがリサ、さっきまで花屋のポニーテールのお姉さんだったリサのままの蜘蛛。
(散々黒が嫌いだとか喚き散らしたくせに、自分だって真っ黒な身体だし)
「お前だって真っ黒じゃねぇか、しかも気持ち悪い、でっけえ蜘蛛」
モフモフうさぎが化け蜘蛛のリサを見て言った。
「ぐうぅぅうるさいっ、うるさいっ、リサ聞こえないから、何にも聞こえなかったから……ハァ、ハァ、でもねぇ、お前はぶち殺すの。 "ぶ・ち・殺・す・の" だってリサを怒らせたから、リサ怒ってるから……」
モフモフうさぎがリサに何か言い返そうとした時、モフモフうさぎのガントレットが形を変えた。
(おわっ、いつか会ったっきりの龍刀ライジングサンっ!)
(過去にするなっ、お前と会ってからまだ2日も経ってはおらん)
(なんで? トウシロには100レベ早えって言ってたじゃないか)
モフモフうさぎの両手に初めて握られた一対のサーベル、刀身の長さは80cmちょっとで柄の部分は拳が隠れるようにドラゴンの頭の形をした半月状の鍔が付いていて、刀身の根元の幅は広く、先端に向かって細く尖っていく特殊な形状をしている。左右対称の剣ではあるが、鍔の部分のドラゴンの目玉、これだけが違っている。片方が紅、もう片方が金色。
(軽いっ……すげぇ)
(実際は重いが、我の主には龍の加護が宿る。故に重さも感じるまい……)
(龍の加護? んなもん、俺いつゲットしたっけ?)
(生きながらに龍と一体になった者にだけ、与えられる加護だ。覚えがあろう……)
(あっ……確かに、喰われたかも。気絶したけど……)
モフモフうさぎと、ユニーク武器であるライジングサンが思念で会話をしている間に、リサがバランスボールみたいなデカイ尻から糸をそこらじゅうに撒き散らし始めた。糸は目で見える程太く、粘着質なのか飛び散った先にへばりついて見る見る間に、蜘蛛の巣をつくりあげていく。
(あんたを使って良いのか?)
(力を抜けっモフモフうさぎ、我を教えてやろう。そして主の身体に刻みこむが良い! サーベルダンスというものを)
ライジングサンはそう言うと、モフモフうさぎの両手が左右にゆっくり広げられて持ち上げられていく。まるで鷲が大空へ羽ばたく直前に、その大きな翼を広げるかなように両腕とサーベルが一体となり、両脚を揃えて爪先立ちになったモフモフうさぎは……舞い踊る準備を整えた。
(そのまま力を抜け、我は今お主自身である。見ておれモフモフうさぎよ)
言葉すら奪ったライジングサンが、モフモフの声で話し始めた。
「円舞曲がお望みか? それとも終わらない絶望の輪舞曲がお望みか? どちらでも良いぞ……我が名はライジングサン、踊ろうではないか、"闇夜を照らす狂乱のシンフォニー"と共に」
そして剣舞曲が始まった……