76 はちゃめちゃ強ぇ
眼力の圧力に耐えきれず、降参しようかなって気持ちが湧いてきた。だってこの白い狼、女の子と話を普通にしているんだもん。もしかしたらモンスターじゃ無いんじゃないか? だとしたらこれが召喚士から呼び出された召喚獣ってヤツだ。初めて召喚獣を見たよ、なんか威風堂々としていて顔つきはスリムで鋭い牙が話す時に見えて、耳がピンッと立っていて……んっ、これって狼じゃなさそうな。
「見事に気配を消している」
「春天公主でも分からないの?」
女の子の声が聞こえるんだけど、召喚獣の向こう側から声がするんで姿が見えない。澄んだ声だ、いやそんな事よりも物凄く召喚系のレベルが高い人に違いない。それにこのフィールドで全くモンスターが湧かないのも、この二人(一人と一匹)のどちらかの能力のせいだろう。僕が思うに全部このハルって呼ばれた召喚獣の能力に違いない。
「匂う……この辺りがなっ」
トンッ
召喚獣が、鼻面を僕に向かって振った。そして僕に一瞬触れた。
ドドンッ! バンッ、バンッ、バンッ、バンッ
なんじゃなんじゃ!? 人魂が、鬼火が、火の玉が僕の周りに出現したぁぁぁ。
ばれたぁぁぁっ、てかどこにぃぃっ?
心の声が口から飛び出しそうになった。危ねぇ、俺ビビって無いよっ、ビビってなんか無いんだから。
「見・つ・け・た・ぞ」
ひいぃぃぃぃぃ、ごめんなさいっ、許してぇっ
僕の真後ろから声がした。つまり僕の背後を取ってるって事は、僕の姿が見えてるって事。背中が寒気でゾクゾクする。両手広げてバンザイポーズを取った僕はそれ以上動かずに冷静に考えた。
もしここで声を出して話をしたら、また会話を変えられてひどい事を言うかもしれない。さっきだって『ごめんなさいぃぃぃぃっ』って言ったら、『この変態がぁぁぁぁぁ』って変換されてたんだ。こんな事を言った暁には否応無く殺されてしまうわ。だってこいつら冒険者達をさっきから無差別に皆殺ししてんだよっ。
「お前は誰だ?」
「お前は何者? 普通の人間?」
普通の人間? それってどう言う意味? 女の子はユーザーだよな。振り向いて見てみたいんだけど。
「答えよ……震えているのか?」
「答えないと殺す」
答えても殺すってなったりしない? ねえ、教えてガリレ……取り敢えず恐怖で声も出ない風を装うしか無い、ブルブル震えてみよう。
「退がれイーニー、こやつ何かを隠しているようだ。だんまりを決め込むのなら、我が真の姿を暴いた上で殺してやるわ」
やめてっ、どうしよっ、可愛い女の子の姿に変わって命乞いとかしても相手が女の子だから意味無さそうだし、声を出したらやばいしって、あれっ、こいつら普通に話してるじゃん。なんでだろ……もしかしてこのフィールドの中って会話が普通に出来るんじゃねぇの? そっかそっか、たぶんそうだよ。女の子の方も普通に話してるしね。なーんだ、心配して損した。よしっ、俺の交渉力でこの状況を突破するぜっ!
「失せろっ、この白ブタ野郎! ミンチにしてブチ殺すぞっ」
(僕はラヴィアンローズ、こっちの人です)
……いっ、いっ、嫌ぁぁぁぁ