72 助っ人発見
まあ、今すぐに始まる様子でも無いので一旦引き下がる事にしよう。
「ねえ、試練はいつ始まるの?」
「太陽が沈むのは夕刻18時。日没と共に試練は開始されるのだ」
あれっ、このゲートキーパー? 普通に答えてくれたけど。
「えっ、もうすぐじゃん。おいっ皆んなぁ〜、開始時間は18時だってぇ〜」
試練の黒い塔の門の前に居た冒険者がそれを聞いて大声で叫んだ。
今は17時42分、この世界の時間の流れは現実世界の2倍の速さで進むように設定されているので、体感時間としては9分待てばイベントが始まるわけだ。
「ちょっとトイレ」
時間に余裕が無い事に気付いて、今頃慌てる冒険者達がつられるように姿を消していく。
まあ僕は関係無いけどね。うーん、一気に人の姿が減ったぞ、ログアウトして再度ログインすると同じ所に戻って来れるようになってたのか。成る程ね、なんだか置いてけぼりされてたのを実感するよ。
「ラヴィ殿、何か剣でも用意致そうか?」
「いやいや、俺行くの? やだよぉ、この塔って……あの人に聞いてみるよ、死ぬかもしれんじゃん」
ちょっとだけ青髭を睨みつけて、俺は扉の前でゆらゆらと立つ黒いローブの女の前に寄って行った。
「ねえ、お姉さん。この試練って死ぬ事はあるの?」
「勿論。試練とは地獄。頼れるのは己の力のみ、全ては敵となるのだ」
やっぱ死ぬじゃん。
「青髭辺境伯、死ぬって言ってるよ。俺やだっ」
「しかしラヴィ殿は屋敷でリサ殿に死ぬ事は無いと申しておったでは無いか。あれは嘘偽りであるか?」
げっ聞いてたの? ヒゲを引っ張ってただけに見えたのに、しれっと聞いてたんだこのオッサン。
「でもさぁ、剣とか貸してもらっても使った事無いし、俺ってどっちかと言うと回復系なんだけどなぁ」
「ならばあの辺りの冒険者と一緒に挑めば良かろう」
青髭辺境伯が、少し離れた場所で姿を隠すように何人かで固まっている集団を指差して言った。
んっ、パーティとかで挑めるのかな? この試練って。
「ねえ、お姉さん。試練ってパーティで挑んでもいいの? それとも一人ずつ?」
「試練の塔には全員入る事が出来る。焦るなかれ、冒険者よ。時は目前に迫っているのだ」
それを聞いた青髭が、さっさと先程指差した集団の方へ向かって歩き出した。
「えっ、ちょっと辺境伯。なんでいきなりそっちに行くのっ、ねぇねぇ待ってよ」
「時間が無いのだ。我が見る限りあの男達がこの中では強いようである。ラヴィ殿の為に我が頼んでやろうではないか」
へぇ、そうなんだ。なんか我関せずみたいな集団だけど。グループチャットで話しをしているのか? 会話も全くしている様子でもないし。
「おいっそこの男たち、ラヴィ殿をお守りしろっ」
ゲロゲロっ、お願いどころか命令しやがった。青髭の声を聞いて一人の斧戦士が振り返ったのが見えた。
「青髭? んっ、俺達に言ったのか? というかラヴィ殿って言った気がしたが。おっ、おおっ! ラヴィちゃんじゃねぇかっ」
少し低いトーンの男の声に聞き覚えがある。もしかしてと思ってよく見たら、名前もギルドエンブレムも消しているけれどメンツの中に見覚えがある顔もあって、誰か分かったんだ。
「ガルさんっ」
「ラヴィちゃん、なんでここに居るんだぁ」
だよねっ、なんでここに居るんだろう? というか偶然だけどラッキーだぜぃっ。この集団、アクエリアのギルド・ナイトパンサーじゃん。アンタレスのギルドの中でもトップクラスの強い所だよ。
「ラッキ、ラッキー。ガルさんこんにちはっ、それから皆んな、えっと……げっ巴御前、居たの?」
「えぇ〜居たら悪かったかしら? ネカマのラヴィちゃん冷たい、超絶冷たいわぁ、久々にこんな美少女に会ったのに、ガルフには優しくてあたしにはそんな事言うんだっ」
さすがネカマとかボソっと言いやがった。後でお尻ペンペンしてやるからなっ。
「あと、AZニャさんとスタンガンさん。それとえっ? ダッジ? ダッジだよねっ違う?」
「うぉぉぉぉぉ覚えてくれてたかあっ! 感動だっ、ラヴィちゃん。いつかストレイで助けてもらった恩は忘れてねえぜっ。あんた凄えからなっ、うちと組んだら最強じゃんか」
「ダッジたん、うちらもご紹介してよぉ」
「おおっ、じゃあガルさんに代わって俺が紹介。こっちのドワーフ少女がミタラシ弾吉。エンチャンターで、普段は武器修理のスキル上げ上げ職人だ。それからあっちは愛愛愛エルフの召喚士、モンスター使い。どちらも女の子キャラだが中身は男だっ」
「それ言うなぁぁっ、ミタラシたんは女の子なんだからぁっ。ラブたんは男の子だけどね」
「はじめましてっ、スリーラブです。ラヴィちゃんの噂は聞いてました。いやいやまじでお初。顔の薔薇が凄えなぁ」
エンチャンターって紹介されたドワーフ娘のミタラシ弾吉、自分でミタラシたんって呼んでたけど、ゴーグルのついたベージュ色の航空帽を被ったちっちゃな女の子。マスコットみたいで可愛らしい。
スリーラブの方はエルフの女性キャラで声はエフェクトをかけた女の子の声。話し方は男のままだった。
「僕はラヴィアンローズです。こっちの人です、宜しくねっ」
敢えてこっちの人って表現した。そんな僕をガルフさんは何も言わずに見ていたんだ。
「そろそろ時間。行こっか、ねっラヴィ」
「呼び捨てかっ、巴っ」
「女の子同士でしょ」
くっ、こいつ相変わらずだ。可愛い声しやがって。
「きゃははははっ、すぐ顔に出るっ。ラヴィってわっかりやすいねぇー」
くっ、何も言えねぇ。リア女、強ぇっ……




