44 クエスト[花の回廊]④
鋏、剪定バサミ、高枝切りバサミを、何処からか植物が運んで来た。リサは迷わず高枝切りバサミを手に取った。
「ジョキンッ、ジョキンッ」
切れ味を確かめるように、小気味良い音を立てて高枝切りバサミを開閉するリサが、余裕の態度でモフモフうさぎの方を見上げる。
「みんな、聞こえる? この切れ味鋭いハサミの音。切っていい? もう黒うさぎを切っていい? ……えっなぁに? ……うんっ、逆さ吊りにしてからねっ、わかった。リサ、リサがやってみるねっ」
リサが蔦にぐるぐる巻きにされたモフモフうさぎに向かって、軽蔑した目を向ける。
「間違いなく死ぬわよ、黒うさぎっ、さあ時間よっ、狼狽えなさい、涎を垂らしてひと思いにトドメを刺してと泣きわめくがいいわっ! でも聞いてあげない。リサは聞いてあげないから……ヒヒッ」
モフモフうさぎは次々と増えてくる蔦から抜け出す方法を考える……
(植物が嫌いなもの、それは……火、火なら手足が使えなくても俺には使える。ならばこれでどうだ?)
「我に流れし血潮の加護よ出でよフレアッ」
蔦でがんじがらめのモフモフうさぎであったが、口は閉じられていなかった。つまり魔法の詠唱が可能という事であって、生み出した魔法の炎の行き先は……自分自身、そう、モフモフうさぎは自らの炎に包まれた。
「ギィヤァーーーーーーーーーッ」
モフモフうさぎの意識が一瞬飛ぶ、リサの狂気の悲鳴が花の回廊に響き渡った。モフモフうさぎを覆っていた蔦は、魔法の炎フレアに焼かれて黒焦げとなって下に落ちていく。頭を振って飛びかけた意識を取り戻したモフモフうさぎは、壁を蹴り回廊の地面をさらに蹴りあげ、リサに迫る。
(すまんなっ、女に手を出すのは気が引けるが……)
跳躍と同時にリサへ目掛けてダガーを2本飛ばす。狙いは額と心臓、
(苦しまずに死んでくれ)
しかしダガーがリサに届く前に、リサの前に茨の盾が現れる。ダガーは茨の蔓に突き刺さったが、突き抜けることは無かった。形を変えた茨の盾は繭のような形になってリサを包みこんだ。
(速いっ、俺のダガーを見切った)
モフモフうさぎは飛んだ先のリサが茨の繭に包まれたせいで、躱すことが出来ずそのまま茨の繭に飛び込んだ。両手のガントレットで顔をガードし、体当たりする形でリサに接近した。茨の棘がモフモフうさぎの身体中に突き刺さって赤い血が噴き出す。
「バンッ」
と、モフモフうさぎは茨の繭から弾き飛ばされた。
「シュルシュル」
と、リサを覆っていた茨の繭が解けてリサが……リサだった者が現れた。