67 宣戦布告 2
「次はスワン君宛の手紙だ。カル君」
カルのモニターの前に他のGM達も集まって来て見ている。離れた席でそれぞれが確認するよりも、やはり集まって顔を見ながら話をするのはこの世界で仕事をしていても同じ事であった。
◆◇◆
「ようっスワン、皇帝バッドムだっ。これからちと小難しい話をするぜっ、まあお前なら分かる話の筈だ。というわけで映像付きの特製プロモを作ったから先に見てくれたまえ」
モニターに映るバッドムRの姿から、映像が切り替わった。夜の街の摩天楼が画面をいきなり埋め尽くした。城と言うよりも近未来的な建築物? 直線と曲線と金属質な表面の壁に、揺らめく蛍光色の光。建物自体が生きているかのように見えるのは、今の現実世界の町と何ら変わりの無いものであった。
「あらっ、人が歩いてるっ」
「おっ本当やっ。なんで? これ全部NPCじゃねっ? めっちゃ人が居るじゃん」
舞台は夜の街。巨大な建物群の足元には繁華街のような都市が広がっているようで、都市の全景が見えるように画面が引いて行くと、一際背の高い城が都市の中央部に存在するのが見えて来た。周りに建つ歪な尖塔やビルの混合物も背の高い建物であったが、唯一、中世ヨーロッパの城を模した建物があって足元からサーチライトで照らし上げられている。
空に向かって伸びる城は中層から太い六角の円柱となり、その先端は雲に突き刺さりサーチライトの明かりもそこまでしか照らすことが出来ていなかった。
今度は画面が拡大していく。雲の上に場面が移り、月の明かりに照らされた城の先端が映し出された。まるで雲を地面に見立てて建てられた城がそこにある。地面からここまで繋がっているのにも関わらず、先端部分だけでも巨大な城を作り上げていた。尖塔が12本伸びていて、その中心のステージ最上部の園庭には皇帝バッドムの居城であるであろう三階建てのバロック様式の建築物が鎮座していた。
画面はその城の門への寄って行く。
いつの間にか、城の扉が開き赤い絨毯の敷かれた大階段を上って行く。目の前を歩くのは召使いのエルフなのであろうか。蛍のように蛍光色のクロスラインが点滅する黒いスーツのその背中は、よく見れば催眠術のように観るものを眠りに誘う。
「おいっ、起きてるかぁぁぁっ!」
見事にモニタールームに居た全員が眠ってしまっていた。見透かしたかのようにバッドムRが画面に現れて大声で叫んでいる。その声で目を覚ましていったGM達を見ているかのように、皇帝バッドムは、側に立っていたエルフの女性の肩に手を掛けて立ち上がり、彼女の腰に手を回して抱き寄せると従順な彼女の顔に顔を寄せて画面の方を見た。
「まずはイベントをやるぜっ試練の黒い塔。世界各地にクエスト塔をばら撒いた。今夜から始めるからそっちで告知してくれよっ。ちなみにユーザーが集まらなかったらお仕置きなっ」