43 クエスト[花の回廊]③
「みんな力を貸してっ、悪い黒うさぎを縛って吊るして、罰を受けさせるのよっ」
リサの声に花……いや植物全てが反応したのがモフモフうさぎにはわかった。今まで只の緑の葉、茎、枝、花、蔦であった物が "ドクンッ" と脈動を打って、あちらこちらにその美しさをばら撒いていた花が、まるで蛇が鎌首を獲物に向けるかのように一斉にモフモフうさぎの方を向いたのだ。
(足元、左右、上もだ。後ろも花だらけ……よくあるパターンなら、植物の蔓が伸びてきて手足に絡みついて動けなくなるって……ほらなっ)
左側の柱に巻きついていた蔓状の植物が、シュルシュルと動き出し、モフモフうさぎを取り囲む草花もいつの間にか、円を描くように一定の距離を置いてユラユラと攻撃の機会を伺っている。
モフモフうさぎの何を参考にしたかはわからない知識は、この状況下で起こりうるお約束な出来事を、的確に予測していた。ただし、現実に我が身に起きた時の対処法に関しては、あまりにアバウト過ぎて役に立ちそうも無い。
(取り敢えず、突っ立ってるのはまずいよなっ)
ポニーテールのお姉さん、リサに近づく最短ルートを探しながらモフモフうさぎは両手にダガーを取る。
(なんとか説得出来ないかな?)
「リサッ」
「ヒィッ、黒うさぎが刃物を持ったわ。みんな気をつけて! 危険な黒うさぎがみんなを切り刻んで、樹液を垂れ流し・花弁を首元から切り落とし・根っ子を掘り返して、みるも無残に枯れさせようとしてるのよ」
「いや、俺掘り返すのは苦手だし、つーか掘るのはラヴィちゃんの方が上手いって、専売特許だから」
「切り刻むのにも飽き足らず、さらに掘り専門のラビットまで呼んだって……うぅぅわぁーん」
「言ってねぇだろっ、そんな事!」
「死ねっ、黒うさぎ。薔薇の棘に絡みとられて血を流して痛みに悶えよっ、トゥリアンダフィリャ・キッソス」
薔薇の花の茂みから、何本もの蔓が伸びてモフモフうさぎの正面から襲いかかった。薔薇の蔓には危険な棘が無数にある、もちろん毒も。
ブンッ
と、音を残してモフモフうさぎが消える。空を切った薔薇の蔓がモフモフうさぎがいた場所で絡みついてモゾモゾ蠢く。
「キィーーーーッ、動くなっ、動くなっ、黒うさぎは身じろぎするな! どこに隠れた哀れなうさぎー」
モフモフうさぎは植物の少なそうな回廊の壁にダガーを1本放ち、突き刺さったダガーの柄の部分に足を掛けて壁の中程に立っていた。片手にもダガー、壁に突き刺して見事なバランスを取っている。
「リサッ、お前を倒したら先に進んでもいいのか?」
壁の上からモフモフうさぎが声を掛ける。リサは声のする方を見て、やっとモフモフうさぎを見つけた。
「そんな所に……うさぎは鍋で煮込んでシチューになったら、お隣のロゼッタ姉様にお裾分けするのよ。悲鳴をあげて、シチューになぁれ、悲鳴をあげて美味しいシチューになぁれ」
(アホかこいつ、話が通じねぇ)
ビュッビュッ、ビュッ、ビュッ
壁のモフモフうさぎに何か飛んで来た。小さな種、アーモンドのような形で、今度は四方からモフモフうさぎを狙う。逃げる場所が無く、しかも小さな種に気がつかなかったモフモフうさぎに
ビシッビシッビシッビシッ……
雨あられの様に当たって根を伸ばし蔓を絡ませる。
(やべっ、なんだこりゃ。一気に蔦が身体に……動けねぇ壁に固定されたっ )
「ウキキキキキッ、貼り付けうさぎ、黒うさぎ、誰か鋏を持っておいで、大きな剪定ばさみ、高枝切りバサミ」
(それ言っていいのか? って、自分の心配をしないと……どうする? 動けねぇぞ)