57 試練の黒い塔の出現
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── アクエリアの公文書館にあるGM専用集中管理モニタールーム
「今の揺れはなんだっ!」
そう言いながら、ランスロック岩井が振り向いてモニターに映る映像を見た。リザードマンの尻尾が座っていた椅子を弾き飛ばす。
「チーフッ、何これ。ノーガンミールエリアに多数の、えっと、試練、そう試練の黒い塔が出現しましたっ」
「ソフィー君、その映像をまわしてくれっ」
「岩井チーフ、アクエリアの街のすぐ近くにも試練の黒い塔が多数出現っ。リアルに今落ちて来てますよっ」
ゴォォォォォォォォォォ
空気を震わす音がランスロック岩井のモニターから響いた。星空に突如として開いた赤紫色の空洞、そこから底が尖った石突きのようになった六角柱の黒い塔が地面に向かって落ちてきていた。
「ヤベェよっ、ベルクヴェルクの街の真ん中にぶっ刺さりやがった。つーかなんでや? スワンっお前か?」
ドォォォンッ
ハルトが繋いだ映像からの重低音の激しい音がモニタールームのスピーカーから流れた。
スワン達GMにはその黒い塔に見覚えがあった。
「試練の黒い塔だ。僕じゃ無い、カルッ」
ガタガタ、ガタガタガタガタガタガタ
今や音だけでなく振動までがモニタールームに伝わって来ている。スワンが席を立ってバランスを崩しながらもカルの側までやって来た。
「カルッ、これってもしかして」
「岩井チーフのサーバーサルガスからのゲートが開いてる。どうやって……うわぁマジか。三次元座標の指定はあっちからでも適当に出来るけど、そもそものアクセスゲートとルートを設定しなきゃあんなもんこっちに持ってこれねえ。ヤベェよスワン、これって達也が消えたお前のクエストをぶっ込んだ痕跡を利用してやがる。マジでやべぇぞ、これやってんのは俺を殺したAIかもしれん」
「なっ……」
◇◆
ダミナの領主館では領主 青髭、正式名ジョン・Ⅾ・アウイナイト辺境伯が吠えていた。
「うっせえな、犬かっ」
「しっ、聞かれたら怒るよ青髭が。あれでもブルードラゴンだよ、微妙に強い人なんだから」
「へいへい、つーかさっラヴィちゃん、なんだろこの前の揺れ。リサが来た日だったよな」
「うん、あの時僕とリサは海の部屋に居たんだけと海の底ってあんまり音が伝わらないのかな、部屋から出たら揺れと爆音にびっくりしたけど」
ジョン・D・アウイナイト辺境伯、通称青髭から幽閉されているラヴィ達には、ダミナの街のエリアの近くに落ちた『試練の黒い塔』の事がまだ知らされてはいなかった。
モフモフうさぎはトイレとリアルの食事の為に屋敷の中からログアウトとログインを行なっているのだが、他のGMやランスロック岩井がアンタレスの中の公文書館のモニタールームに居るので、ログアウトした時にVRルームでの確認作業というものはしていなかった。
ちなみにベッド型のVR装置でログインしているので、彼は睡眠をアンタレスの中でとっている。
「おーい青髭伯爵、この前の揺れと爆音ってなんなんだ? そろそろ教えてくれよっ」
「うさぎ男爵、お主の下品な物言いに一々返事をする気は無い。何度言えばわかるのだ?」
「あっ、すいません。ちっ、面倒くさいやっちゃ」
「なんだっ?」
「いやいやいや、伯爵、うちのラヴィちゃんも知りたいと申しております。今回の揺れとロゼッタの件に関連性は無いのでは? と、ラヴィちゃんは申しております」
青髭がギロリとモフモフうさぎを睨むと、ラヴィの方へ近づいて来た。
「ラヴィ殿の言葉を借りねば話せぬうさぎ男爵よ、少しは進歩を見せたらどうだ? お主と話をすると私までもが田舎者に思われるではないか」
(まあ、確かにダミナって田舎の町だし、アクエリアと比べれば辺境度が高い。青髭ってもしかして田舎コンプレックスを持ってるのか?)
モフモフうさぎがラヴィに後は頼むわっと、ロゼッタの部屋に向かって行った。
「ふんっ田舎者めっ、さっラヴィ殿、邪魔者は消えた。確かに先日の揺れの原因は殺人鬼とは関係が無かろう。ついてこられよ、物見の塔の上からアレは見える。何かわからぬが、気に入らんアレがな」
ラヴィの胸に渦巻く嫌な感じ、それをはっきりさせたいとラヴィは思っていた。
(こんにちは、水のお花さん)
(こんにちはっラヴィ、どこへ行くの?)
(物見の塔へ向かってるんだ)
(遠くを見るのかい? 何を見るのかい?)
(伯爵がアレって言う何かが見えるそうなんだ。みんなは知ってる?)
「ラヴィ殿、早くこちらへ」
青髭伯爵に急かされて、ラヴィが歩き出した。
この館の廊下には所々に水中花が飾られているので、ラヴィはそれぞれの水中花に挨拶をしながら青髭の後ろを歩いて行くのであった。
◆◆◆◆
「やっぱよぉ、お客っつーのは必要だわな。カルは来ねえし、あっちで街を作ってもNPCしか居ねえし……今日の俺様は気分がいいぜっ。おいっシャンパン持って来い」
バッドムRが召使いを呼んだ。
「ご主人様、こちらを、どうぞ」
「つまんねぇ〜、はぁ〜やっぱまともな人間の女じゃねぇと駄目だなっ。なぁっおい、お前もそう思うだろっ」
「はい、ご主人様。そう、思います」
「……奏音みたいなのは居ねーしよっ。つーか逃げやがって。こっちに来てんのはわかってんだ、今度捕まえたらグフフフフッ、僕ちん許さないんだからねっ」
アクエリアの街から東に500km程離れた場所に、ひときわ大きな塔がそびえ立ってっいた。その最上階の皇帝の間にバッドムRが居た。
「やめだやめ、魔王とか馬鹿丸出しじゃん。やっぱ漢は皇帝だぜっ。皇帝直属の騎士団を作ってぇ、軍団作ってぇ、それからぁ、アクエリアを襲って支配しちゃおうかなぁ。反抗するレジスタンス達の中に潜む俺、みたいな。超面白え。俺様ってもしかして最高?! だよね〜、おいっ、ちょっと来いよ」
フラフラと召使いのエルフがバッドムRに近づいて行く。
「喜べ、俺様はたった今から皇帝だ、バッドム皇帝。それでな、ちょっとお使いして来い、なっ。アクエリアに一番近い試練の黒い塔の皇帝の部屋に飛ぶから、そっからスワンとカルに手紙を渡して来るんだ。なぁっアンナ、やっぱお前可愛いわっ。お祝いしようぜっ」
「ご主人様……はい。喜んで。アンナはご主人様が……」