55 暗黒の到来
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夜になる前にダミナの町に帰還したギルド・ナイトパンサーの、ガルフが率いるチーム。町のアジトである家に帰っても、まだナイトパンサーのチームは帰って来てはいなかった。
◆◆
ガタッ
アジトの玄関の扉が開いた。ギルドメンバーがそれぞれ登録しているので、玄関の扉が開くという事は、ギルドメンバーの誰かが帰って来たという事だ。
「おうっ、スタンっ。お疲れっ」
「ギルマスは? まだ帰ってない?」
「あぁ、そっちのチームはスタンが1番早く帰って来たみたいだ」
玄関を入ってすぐのリビング兼キッチンに、料理を作るガルフの姿があった。
「そうか……つーか殺られたっ。あいつまんまロゼッタじゃん、しかも側にリサも居た。あっガルさん、多分違うとは思うんだけど外見はリサだったよ」
「ええっ! そっちに出たのかスタンっ、 他のみんなは?」
「いや、殺られたのは俺1人だけ。つーかデスペナが痛えよ、アイテムロストもしたし。つっても携帯糧食1個だけどな。見せる前にやられたし」
巴御前達が2階から降りて来た。
「おかえりースタン君。聞こえたんだけど、おっ死んだの?」
「はいはいっ、オラも仲間入りしましたっつーの。言われた通りに携帯糧食を見せようと思ったんだけど、『人間』のひと声でぶっ殺されたわ。まあ、どうせ拾った携帯糧食を今頃食ってんだろうよ。他の奴らも皆、携帯糧食がなくなってたって言ってたしな」
ガタガタと2階から降りて来たギルドメンバー達が、1階リビングの適当な椅子に座って行く。
「まあ、武器のロストが無いだけマシだったね」
「まあねっ。ただあそこで会ったって事は、確実にこっちに近づいて来ているわけだ。ガルさん、出会い頭で捕まえるのは無理だぜっ。来るのがわかっていて罠か何かを用意しておいてハメなきゃ勝てねぇよ」
「ふ〜ん」
テーブルの上にリングを並べてひとつずつ磨き始めた巴御前が、その気のない相槌を打つ。
「それでギルマス達は?」
「南東のマルソー山を越えて、その先の深い渓谷を飛び越えた先の海に向かっていたら、海辺に町があったんだ。そんでまだ人が来ていない町らしくて、二手に分かれて町に潜入する作戦をとった」
カレーの匂いが部屋に漂う。
「あははっ、ガルさん飯っ。俺っちもうヘロヘロなのに回復しないで帰って来たんだ。ガルカレーの効果確かめたかったし、そもそもカレー食べたいっ!」
「ほらっみんな出来たぞっ、取りに来てくれ」
「はいはいはーいっ」
ダッシュで1番乗りは、ドワーフ娘のミタラシたん。そして皆がそれぞれカレーを手にしたところでキッチンからガルフが声を掛けた。
「じゃっ、頂きますっ」
「「「「「「頂きますっ」」」」」」
スタンの話は一旦置いて、夕食のガルカレーを食べ始めるギルメン達をキッチンの中から眺めていたガルフは、ダッジと目が合った。巴御前も手が止まった。ダークエルフの愛愛愛が瞬きをせずに耳を澄ましている。
カチャ、カチャ
「しっ、静かにするのAZニャ」
「えっ?」
何も気づかずにカレーを食べ続けていたAZニャに、ミタラシたんが小声で言った。
バンッ、ガタ、ガタ、ガタガタガタガタガタッ
ギルドハウスのガラスの窓から音が鳴り始めた。
ドッドッドッドドドドドドドドドドドド
地面の音と共に震動が建物を襲ってくる。
「みんなぁっテーブルの下に潜れぇっ!」
ガチャンッガッチャガタガタッガタガタ
食器が割れる音に混じってガルフの叫び声が響いた。
ガタガタ、ガッ、シ─────ン
音が遠くなり揺れが消えた。皆がまだ身動きしない中で、ドンッ、ドンと重い音だけがどこかでしているのが聞こえた。
◆◆◆◆
「ヘッヘッヘッヘッ、遂に、遂に上陸したぜぇ、魔王様のお出ましだっ、やっぱ俺様が居ねえとアンタレスも盛り上がらねえだろ。よっしゃぁ、手始めにエルフの女と、ヒューマンの女っ、どっちがいいかなぁ? うんっどっちもだな。あー我慢したっ、マジで。あっちでNPC拉致っても全然ツマンネかったし、やっぱ本物の方がいいよなぁ。まっスワンに邪魔される前にカッチョいい凶悪な城を作るぜ」
黒いマントで醜悪な髑髏の鎧を隠した男の名は『バッドムR』。
GMが持つ端末を手に、次々とランスロック岩井のサーバー『サルガス』を経由して操作を行い物を送り込む。
ダミナの町を取り囲む森、東側に広がる起伏のない暗い森の中に突如、超巨大な石柱が何本も空から垂直に突き刺さり、地面を揺らしていった。
たまたまダミナの町の路上で空を見た人々は、空に開いた丸い異界のゲートから黒い槍が地面に打ち落とされるのを見た。空気を震わせ、地面を激しく揺らした何か。
── バッドムR、魔王バッドムRがアンタレスへ侵食を開始したのであった。