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53 九尾の白狐

 ナイトパンサーが地面に突き立てたテンタクル・カイトシールドが激しいエネルギーの光を放ち、バチバチと音を立てながらサークル状にエレメンタル・ウォールを形成している。その中心に(ひざまず)く白狐・憑依イーニーが、目を閉じたまま叫んでいた。


「やめてぇぇぇ、眩しいっ、このロープ痛い、痛い、痛いったら痛いのっ。誰かぁ」

「無駄だ、どう足掻(あが)こうとお前が咎人なのは間違いないっ!」

「違う、私何もしていないっ。誰にも悪い事なんかしてないっ。どうしてぇぇ、あぁもう本当に痛いって言ってるでしょっ」


 ナイトパンサーがテンタクル・カイトシールドの影から大声で叫び返す。


「人形めよく聞けっ、この場所は町の移動ゲートだ。移動ゲートでは普通の人には俺達は攻撃出来ない、だがお前に攻撃が出来ている。つまりお前は移動ゲートでも攻撃対象になり得る相手だということ。つまり……」


「酷いっ、全然私の言うことを聞いてくれない。私は何にもしていないのに……今だってこんなにされたって我慢してるのに……」


 上半身をロープで縛られているのでイーニーは顔を手で覆う事が出来ず、うなだれたように俯き肩を震わせた。


「ロイっ、騙されるなっ! 現実を見ろっ、この場所で攻撃可能な相手は、※赤ネかモンスター、又は敵対行為をしてくるNPCだけだっ」


 人形とは言え、イーニーが言葉を話せば人に見える。美しくロールした髪が顔を隠してしまえば、彼女はまるで魔女狩りに捕まった無実の美しい娘に見えた。


「ロイっ、TAKAっ。憐れみは無用だ、殺られた時の事を思い出せっ」


 そう言われて、はっと気がつくロイ。


「TAKAさん、僕はなんだかちょっと違う気が……」

「俺もだ。あの時のあいつがこんな簡単に捕まるのか? しかも姿はロゼッタと見間違えるほど似てねぇし」


 2人の言葉を聞いて顔を上げたイーニーが、涙を浮かべた瞳でロイを見た。


「そんな事は後で確認すれば良いっ、姿を変えられる相手だったって事だ。普段は人形の姿、こいつはきっと変身出来る筈だ」


 ナイトパンサーが右手に剣を握った。それを見たロイが慌ててナイトパンサーの方へ駆け寄る。


「ギルマスっ、全然雰囲気が違うんだっ。あんな哀しそうな目をした彼女は絶対違うと思います。話だけでも聞きましょうよ」


「ギルマス、俺もこの人形の姫さんは人違いだと思うぜ。俺達を殺ったあいつは喋る前にロイを殺る時間があった。少なくとも攻撃する余裕はあったんだ。なのに手も出さずにまさかのロープで縛られて大人しくしてるという……ありえねぇ」

「TAKAっ、ロープは緩めるなっ」


「痛いのに、離してくれない。私殺されちゃうの? 私死んだらもう2度とこの世界に生まれてくる事が出来ないのに死んじゃうの? あぁぁぁんっ、あぁ───んっ」


「「ギルマスっ」」


 テンタクル・カイトシールドの覗き穴からイーニーの様子を見たナイトパンサーは、無表情のはずの人形の顔に哀しみと諦めが浮かんでいるのを見た。


「くそっ人形なのに……。俺は女を泣かせたのか。ええいっ、ままよっ。TAKAっロープを解けっ。ライトニング・エレメンタル・ウォールを解除っ、そして受けてみろっ、白き人形姫イーニーっ!」


 ナイトパンサーがテンタクル・カイトシールドを背負い、オリオン・ロンググレートソードを上段に構えた。


「やめろォォォォォギルマスっ」

「それは、もし違っていたら取り返しがつかなくなるっ、ギルマス、その人は死んだら戻らないって今言ったばかり、撃っちゃダメ……」


グゥォォォォォォォォォォォォォォォ


「美しき姿に隠れる真の姿は、闇か光か。闇でないと言うならば受けてみよっ。退魔聖魔法、ホーリー・グレ────イルッ」


 天にかざしたオリオン・ロンググレートソードの刀身に流星が巻きつき、キラキラと光を放つ。

 ナイトパンサーは詠唱を終えると同時に剣をイーニーに振りかぶった。



 ── それは銀河で埋め尽くされた聖杯(グレイル)。その中にイーニーは包み込まれ聖なる星の光の中に消えた……


「あっあぁっ、そんなっ」

「まじかっ、チッ」

「すまない、イーニー……姫よ」



ボンッ、ボンッボンッボンッボンッボンッボンッボンッボンッ


 銀河が風に舞うイーニーが消えた場所の真上に、音を立てて白く燃える狐火が灯った。1つ、また1つと増えていき、曼荼羅のように9つの狐火が現れて同じように揺らめいた。



「すまないで済まないぞ。余計な事をした人間風情が。ほらお前だっ。キザなセリフ野郎、人違いでしたでは済まないからね」


 ロイが、TAKAが、そしてナイトパンサーが金縛りにあっている。動けた筈のゲームの中の分身が自分の意思に反して全く動かなくなった。コマンドすら全てキャンセルされる状態を金縛りと表現せずに何と言えば良いのだろう。


シャリンッ


 ひと振りの鈴の音が響く。


シャリンッ


 彼らの目に映るのは先程までの人形のようなイーニーではなかった。

 長く真っ直ぐな髪が宙を舞う。まるでそこに舞台があるかのように。


シャリンッ


 彼女の背後に広がる真っ白な白狐の尾。


(尻尾が、イチ、ニィ、サン……えっ全部で9本っ!……と、という事はイーニーって九尾の白狐なのっ?)


(しまったぁぁぁぁぁぁ、隠れ超レアユニークキャラに俺はやっちまったぁぁ。これは終わったかもぉぉ)


(すっげー良い女、ギルマス最悪だ。だからちげーって言ったのによぉ)


シャリンッ


 画面が暗くなる。


シャリンッ


 聞こえる神楽鈴の音も遠くなっていった。

※赤ネ


赤ネーム。名前を赤い字で表示される他の冒険者を殺害したキャラクター。赤ネームキャラクターには、他のモンスターと同じように、町の中や、普通の人には攻撃不可の場所であっても、アンタレスONLINEでは攻撃が出来る。

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