50 隠密部隊
少し背丈の伸びたイーニーの着ていたメイド服の袖は一緒に伸びていたが、スカートの長さは変わらず、膝から下はスラリとしなやかな足が露わになっていた。
「フュー、ス──ッ、フュー」
ゆっくりと長い呼吸をイーニーはしている。
(かなり先ね、ハル)
(近づいたら姿を消すぞ、だが町の店には入るな。入り口のドアを開けた瞬間に明かりが灯りNPCが動き出す)
(わかってる)
背後に流れる白狐・春天公主の尻尾で上手くバランスをとりながら、まだ冒険者が訪れず暗い町の大通りを、かなりの前傾姿勢でイーニーは飛ぶように走っていた。敷き詰められた焼いた煉瓦は滑りにくく、イーニーが通り過ぎてもそこに残るのは、一瞬のつむじ風と揺れた看板の音のみ。
(海辺が広くて山に向かうほど町が細くなっているね)
(2km程だな、町から繋がる道は北の山側と海沿いに東と西にある。侵入者は北から現れた)
── イーニーの特殊能力、【ゴーストタウン】。それは街をまるごと感じ取る能力。街のどこに居ようとも、彼女は侵入者という異物を感じる事が出来た。
(イーニー、そこの塔に登れ)
タンッ、タンッ、タッ
勢いをつけて地面を蹴り上げ、道沿いの家の屋根までジャンプし、更に蹴り上げて鐘楼の屋根の上に立つ海神の像にイーニーは掴まった。
(そーっと覗くよっ)
(気をつけろっ、奴らは町の店に入っていない。静かすぎる……)
暗闇に気配を消したイーニーのハル耳がピクッと動いた。
タッタッタッタッ・・
柔らかく軽い足音が遠くに聞こえた。イーニーがそちらに集中すると、人の話し声が微かに聞き取れた。
「この町はまだ未開の町みたいです……」
イーニーのケモ耳がピクッっと動いた。若い男の声が、遥か前方の町の北側で微かに聞こえた。
◇◇◆
ロイ・クラウンが先行する。闇に溶け、感覚を研ぎ澄まして敵が居ないか確かめながら路地から路地を進んでいる。少し遅れてロイの背後を守るのはダークエルフのアサシンTAKA。
ギルド・ナイトパンサーの別行動隊。隊長はギルドマスターのナイトパンサー、そしてロイ・クラウンとTAKA、スタンガンがこのチームのメンバーである。ガルフが率いるチームとは違い小数精鋭で移動重視の部隊であった。
(ギルマス、町の中に入ったからパーティチャットが効くよ。少なくとも敵は居ないみたいです。だけど人も居ない、間違いなく僕たちが初めてこの町に到達したようです)
(了解。ここでパーティチャットがどこまで届くかは、まだわからないから確認しながら進んでくれ。随時連絡を)
((了解))
ロイとTAKAが返事を返した。2人は街灯の無い町の裏路地を選んで進んでいる。目指すは町の中心部だ。アンタレスの町や都市は必ず町の中心部に移動ゲートが用意されていて、そこから他の町や都市に飛ぶ事は出来ないが、帰還ゲートとして登録をすれば戻ってくる事が出来る。
ただし隣り合った2つの町や都市の帰還ゲートしか登録出来無い。ロイ達の登録済みの帰還ゲートは、ダミナの町とその次にあった小さな砦の2つなので、この町を上書きしてしまうとダミナの町へは帰還スクロールを使って直接帰ることは出来なくなる。
ロイは全く足音を立てない。それは後に続くTAKAも同じ事だ。
(ギルマス、町だからモンスターも居ないです。今のところ人の気配も無いし、NPCも現れていませんね)
(ロゼッタ姫は夜に現れる、影も同じくだ。気をつけてくれ、こちらは町を見渡せる高台にもうすぐ着く。暗いが明かりをつけて移動出来ないので手間取っているが、そっちは夜目の効くエルフだ。頼むっ)
ズサッ
ギルマス・ナイトパンサーが暗闇の中で、また足を滑らした。
(スタンは?)
(俺と反対側の西側に伸びた別の道へ。あいつ足が早すぎる、町から離れ過ぎたみたいでチャットが届かない)
槍戦士のダークエルフ・スタンガン。彼もまた闇に溶け込む才能持ち。単身での行動を任せる事の出来る男であった。
巴御前 エルフ 弓魔法
スタンガン ダークエルフ 槍戦士
ガルフ ヒューマン 斧戦士
AZニャ ヒューマン 剣士
ナイトパンサー ヒューマン 剣士
ロイ・クラウン エルフ ヒーラー
TAKA ダークエルフ アサシン
新メンバー
ダッジ ヒューマン 剣士 元ベルベッタのギルドマスター
ミタラシ弾吉 ドワーフ女キャラ、エンチャンター、普段は武器修理のスキル上げ上げ職人。
愛愛愛スリーラブ エルフ女。召喚士、モンスター使い。