49 ケダモノとニンゲン
「これからあなた達はどうするの?」
「決まってる。あいつを探し出して殺す、そして奏音を元に戻すわ」
「人間を見たら全員殺すのか?」
白狐・春天公主が目を細めて真凛をジッと見ている。
「今までも殺してきたの。今さらどうしろと言うの? そんな目で見ても、もう私の手は血で染まってしまっている。あなたやイーニーのように真っ白では無いのよ。私だってわかっ……」
口ごもった真凛はそれ以上言わなかった。
「ふむっ」
「ふ〜ん」
「イーニー達はこれからどうするの? もう奏音はご飯は持ってないよ」
「へっ! イーニーは働いて買うよ。こんな姿だしカフェとかで雇ってもらえるの」
「そっか。じゃあここでお別れなの……嫌だ」
「奏音」
真凛がわがままを言おうとする奏音を止めた。
「私達が、進む道はもう変えようが無いの。他にやり方もわからない、でもどうすればいいのか……明日あいつが見つかるわけでも無い、このままずっと同じ事を続けて行くしか無い」
「奏音はお姉ちゃんと一緒だからいいの。ただね、人間は許さないっ」
イーニーが立ち上がって、展望台のように突き出たカフェテラスの町の方へ歩いて行った。
「この町ってまだ人間が居ないねっ。イーニーは決めたの。私も奏音を影にした奴を一緒に探すわ。奏音は知ってるの? 町に住んでいる人は人間じゃ無いって事」
「うん知ってる。人間は格好が違うよ」
「私は?」
「人間と思った」
イーニーは首を横にゆっくり振り、風になびく髪を手で押さえて、もう一度視線を町に移した。
「奏音、真凛、聞いて。私の町もこんな風に人が居なかったわ。私と春天公主はそこでずっと待っていたの。あなたの言う人間が町にやって来たら、そいつに資格があるかどうか……それを確かめる役目を持って」
ビュゥゥゥゥゥ、ゴォォォォォ
海沿いの高い壁に沿って強い風が吹き上がって来た。
「資格が無い人間は殺すの。それが私達の使命だった。でも……その資格って何だったのかがもうわからないの。住んでいたお屋敷はボロボロになっていたし、町もたくさん壊されてしまった。それに、あれから誰も来ない」
「それから旅に出たのだ」
イーニーの側に移動して春天公主が振り返って言った。
「うふふっ、はらペコの旅だったの」
イーニーが大きくなった白狐・春天公主に抱きついて、冷たい表情を崩した。
「お前がその表情を覚えたのは、人間と会ってからだがな」
唸るような声は、奏音へも良く聞こえていた。
◇
真凛達と奏音、そしてイーニーと春天公主は、その日の夜、海辺の町の中にあった宿泊施設に泊まった。
「ここも一緒、お店の中に入るといきなり明かりがついてお店の人が出てくるんだよね」
「そうだったの。私達、人間の数が多いと危険だから町には近づかなかったから」
宿に入ると、受付に現れたNPC(町の人)に挨拶をして4人分の宿泊費を真凛が払った。
「奏音、ベッドで眠れるわ。私シャワーも浴びたい」
「ハル、私もベッドで眠れるわっ。一緒にお風呂に入ろっ」
ペロンッと白狐・春天公主がイーニーを舐めると、イーニーが昼間見せたケモ耳と尻尾の生えた姿に変幻した。
「なぜ?」
「うん、だって寝るときはこの尻尾を抱いて眠るもの。これじゃ無いと眠れないのっ、むふっ」
「はあぁぁ、なぜか奏音羨ましいの。夜中にこっそりお邪魔するかもしれないの……」
「駄目よ、そんな事したら。私だって羨ましいんだから」
真凛と奏音が階段を登って行った。1人受付の所に残った春天公主・憑依イーニーは、何を思ったか突然宿から飛び出して行った。