42 クエスト[花の回廊]②
「あんな汚らしい、汚らしい、変な匂いのする、変な匂いのする、黒エルフが入って来て、私の大事なみんなのおうちを穢した、おうちが穢された……穢された」
(えっ、穢すって? この女、言ってる事がおかしいぞ。やっぱり普通じゃないわけか?)
「あのさ、邪魔したみたいだからすぐ出て行くよ。だからこのまま先に行ってもいいかな?」
モフモフうさぎが聞いてくれそうに無いポニーテールのお姉さんに一言声をかけて、さりげなく歩きはじめようとした。
「止まれーーーっ」
耳にキーンと残るぐらいの甲高い声で、ポニーテールのお姉さんが叫んだ。耳の奥に残る変な感覚はモフモフうさぎの足をぐらつかせた。
(やべぇ、三半規管に効く声だ。耳栓が欲しいっ)
「そこの黒、あたしの大嫌いな色。出て行けっ! あっちの黒い扉から黒は出て行け!」
ポニーテールのお姉さんが、目を見開いてヒステリックな剣幕でモフモフうさぎにまくし立てる。
「あ……ごめんねっ、すぐ済むから、みんな心配しないで、うんっ、ダメよ、あんなの食べたら穢れちゃうよ……えぇっ? ……わかった。そんなに言うならリサも手伝うから……搾り取った血を吸って花弁を赤く染めてみたいなんて、そんなの趣味が悪いわ……でも、でも、リサも見てみたくなったわ……黒の血が赤いのかどうか」
ちらちらと、モフモフうさぎの事を見ながら今度は薔薇に話しかける……リサ、今自分でリサって言った女。
(おいおい、何を物騒な事を言ってるんだよ。あっ、物騒なって、同じ事をマッテオにも言ったよな)
「あのさっ、改めてまして自己紹介だけど、俺はモフモフうさぎ、ダークエルフの無職、戦士であり魔導士でもある。そういや "ナイト オブ ナイトメア"なんて称号も持ってる」
「黒うさぎ……不吉、不幸の象徴」
(聞いたことねぇぞっ、それを言うなら黒猫だろうが」
「殺処分してあげる。ちょっと痛くして、だいぶ痛めつけて、かなり苦しめてから、逆さ吊りにして血を抜いてあげるから……大人しくしなさいっ、黒うさぎ」
(頭おかしいだろっ、どうにかなんねえのか?)
「あの、リサさんって聞こえたんだけど良かったかな?こんな綺麗な花がたくさんの中に俺みたいなのが入って来て、なんだか悪かったみたいだけど、そんな怖いことを言わないでさ、このまま通り過ぎちゃいけないかな?」
「ダメッ、血はこの子達が。お肉は私が食べてあげる、ちゃんと血抜きしたうさぎのお肉って美味しいの。あっそうだ、マッテオさんにお願いしよう。マッテオさんに上手に捌いて貰えばいいんだ……」
(マッテオさんがどうなったか知ったら、こいつ怒るだろうな……)
「えぇっ!! マッテオさんが……」
さも花達から、マッテオの不幸を伝え聞いたかのようなリアクションをするリサ。
(ばれたっ、だよね〜。流れ的にこうなるわな)
「お前マッテオさんを……殺人者。汚らしい黒うさぎ、許さないから、許さないから、リサがマッテオさんの仇を取るから」
リサが両手を広げた。
「みんな力を貸してっ、悪い黒うさぎを縛って吊るして、罰を受けさせるのよっ」