48 召喚獣との契約
その音楽は愛愛愛だけでなく、その周りに居る人々にも聴くことが出来た。
「すんげーすんげーっス! あれっあれっしょ、一瞬で2人とも溶ろけるやつ」
「しぃ────────────っ、静かに。今1番大事なとこなんだよぉ。邪魔しないでAZニャたん」
ジャジャッジャジャー、シャン、ジャジャッジャジャー、シャン、ジャジャッジャジャー・・
オレンジ色のオーラの色が増して、中に包まれた愛愛愛とタミメータが見えなくなる。
「風船じゃん、つかハートの形?」
「黙って見とれ、AZニャ」
「なんかショックっす。召喚士なのに俺より剣技も上なんて」
「あ〜今度も駄目か、ジャッジャッジャーってか」
ミタラシたんがバックグラウンドで流れる音楽に合わせて口ずさんでいる。
「えっ、なんで?」
「AZニャが何にも知らなくてごめんねぇ、うち、こんなのばっかよ」
「巴っち、ナイトパンサーってエース級の集まりって噂だったけど、ミタラシたん安心したよ」
「主に俺のお陰ですよね……」
「この音楽ってことはあれが飛んで来るな、どこだ、どこだ?」
「ガルさん、あのハートの角度からしてブロークンアローはあっちの空からぶっ飛んで来るぜっ」
ゴ・ゴゴ・ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
「来るっ!」
キ──────ッン、ズバァッ
「あぁっ! ハートに突き刺さったぁっ」
ピキピキピキピキピキ、パリーンッ
「ひぃぃハートが割れたよっ。誰? どうしてっ、何あのでっかい矢」
「だからブロークンアローってダッジが言ったでしょ。召喚契約が失敗したの。AZニャまじ知らなすぎ」
オレンジ色のハートの塊の中心を大きな矢が貫いている。
バレンタインのギリチョコが最初から半分に割れているように、ゴロンと半分に割れたハートの中に残っていたのは愛愛愛1人だった。
「また駄目だったよ。やっとオーラに包まれるとこまでは来るようになったのにさ。何が駄目なのかなぁ?」
「お疲れさまぁっ、残念だったねぇ。スリーラブはもしかしてまだ成功した事ないの?」
「巴さんはあるんすか?」
「私は召喚系のスキル全くだから、そもそもだけどさっ。別行動してるチームのロイが召喚スキル上げてて何度も成功してるとこ見てるよ」
「まじっすかぁ……俺あっちのチームの方が良かったなあ」
「まぁいいんじゃないか。俺のチームのいいところっ! AZニャ言ってみろっ」
「はいっガルフチームのいい所。飯が旨い、以上!」
「そういうこった、さっさとタミメータのドロップした肉が消えないうちに拾って帰るぞ。今日はもう撤収だ、団長のチームも帰って来るだろうし情報交換しないとな」
「ミタラシたんはついていくよー、どこまでもぉ〜。おっなかペッコペコ、ペッコペコ、ペッコペコ」
タミメータからのドロップアイテムが残されている。ガルフは肉の塊を1つ拾ってポシェットに入れて、何かを拾ってAZニャに放り投げた。
ペチッ
「あっ、何ですかこれ?」
「タミメータのディストーションリングだ」
「クスッ」
「いらねっ」
「タミメータのだからねぇ……」
「レアだ……」
ガルフが他のメンバーを一応見ると、今更感溢れるアイテムに皆は要らないと、バッテンポーズを決めて笑っていた。
「やったぁっ、これを剣のここにはめるんですよね」
カチッ、ブゥゥンッ
「うぉぉぉぉぉ、剣が震えたぁぁぁぁ!」
「巴さん、あいつ本当にナイトパンサーの立ち上げメンバーなのか?」
「うん、リアルが忙しくてなかなか一緒に出来ないからしょうがないのよ。でもねぇ、あれでいいとこあるのよ」
巴御前がAZニャの側に行って、肩をぶつけた。
「頼りにしてるわよっ、将来の剣聖さんっ」
「はいっ、頑張りますっ!」
「素直なとこかな? いい所って」
「いや、たぶん遊ばれてる」
「ダッジたんもそう思う?」
「まぁ、そっちもそんな感じだったんだろ。ガチ勢とまったり勢の共存はなかなか難しいしな。うちはそれでもいいんだ、AZニャもそのうち強くなれるはずだっ」
◇
ギルド・ナイトパンサー。ダッジ率いるギルド・ベルベッタとの統合でギルドの所属メンバーが増えた。そして今、彼らは2つのチームに別れてノーガンミール地方で作戦行動を行なっている。
ギルドマスターのナイトパンサーが率いるチームは、表向きは酒の原料となる物質の探索と収集に向かっている。サブギルドマスター・ガルフが率いるチームは、ダミナの町からミナミに下った街道の分岐点辺りでレベル(スキル)上げをしながら情報収集を行っていた。
── 本当の目的。
それはこの地方で起こるPKを起こしている謎の女を倒す事。殺された冒険者達に、ロゼッタだと言われている謎の女を探し出し、ロゼッタの偽物であれば倒さなければならない。
この地方で活動をしていたギルドメンバーのTAKAと、ロイ・クラウンもロゼッタとその影に殺された被害者だ。2人もロゼッタ姫になぶり殺しされたという。
他の冒険者達の殺された場所の流れを辿ると、この街道辺りが先回りした場所になる。
◇
「帰ろう、もうすぐ夜になる。敵は夕暮れから朝方までの暗い時間に姿を現わしている。撤収、撤収! 帰還スクロール確認、はいっ、はいっ、はいっ、はいっ、はいっ、俺っ、おっしゃOK」
ダッジ達が帰還スクロールを使ってダミナの町のゲートへ飛んで行く。
ブォンッ
最後まで残って皆が飛んだ事を確認したガルフが、街道の分岐点を睨んでバタフライ・ウォーアクスを振りかぶった。
「帰ってカレー作るぞっ」
誰も居ない道に向かってそう言い放つと、ガルフの姿も消えた。




