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44 横恋慕と嫉妬

 ラヴィの右隣にすっと座ったテリーゼ・Ⅾ・アウイナイト。


「頬の薔薇が綺麗ですねラヴィ、私のことはテリーゼって呼んでください」


(ぐふふふふっ、何がモフモフさん大変だねっだ。ラヴィちゃんの方が修羅場を見るぜっ)


 モフモフうさぎがロゼッタの隣でほくそえんでいる。その表情をロゼッタがじっと見ているのに気が付いて、モフモフうさぎは急に真面目な顔をした。


「私に懸けられた疑惑って? 冒険者を殺しまくっているって事かしら。その懸賞は取り下げられたはずだけど」

「確かに、懸賞自体はアクエリアの公文書館本部から取り消しの通達が直々にあった。だが現実問題としてまだ続いているのだ」

「何が?」

「ロゼッタ殿、あなたでなければあなたにそっくりの何者かによる冒険者の虐殺が」


「この近くで起きてんのか?」


「男爵、不遜であるぞ。我は辺境伯、そのような物言いは許してはおらぬ。ロゼッタ様の従者にして爵位持ち故、大目に見るが気を付けられよ」

「……すいません」


(やっべぇ、こんな堅苦しい言葉遣い、庶民には庶民にはぁぁぁ)


「辺境伯。モフモフうさぎは私の(おっと)となる者です。いずれ公爵となる男、どうぞよしなに」

「あっ、あっ、今なんと、なんと仰ったか? (おっと)、そんな……」


「浮気は許さない、それはリサも同じ事」


(ひっ、今ロゼッタが確実に僕の事を見て言った。見てたよねっ、違うよ、僕悪くないもん。たまたまテリーゼが隣に座っただけで)


「リサってどなたですか? ラヴィ様はご結婚なされているの?」

「いや、してないけど」


(ひいいい、ロゼッタが怖い~)


「そう、ならいいわっ」

「いや、リサと僕は……」


「辺境伯、お兄様、町の被害者たちは口を揃えて犯人はロゼッタ姫だと言っています。疑惑が晴れるまでここに居てもらうことにしましょう」


 テリーゼが立ち上がってロゼッタを見た。そして優しい笑顔を向けて言い放った。


「歓迎するわ、アラネア公爵令嬢ロゼッタ様。他に犯人が居るならまた事件は起きるはずよ、その時までここに居てくださいね」


ガチッ、シャン、シャン、シャン、シャン


 青の大聖堂の扉に、鍵が掛かっていく音が響いた。


「あそこから辺境伯のお屋敷に行けます。今から召使いをご用意いたします、館内ではご自由にお過ごしくださいませ。私は歓迎のお食事を用意させますからここで」


 テリーゼが消えた後、居心地が悪そうにしていた青髭、辺境伯が頭を掻きながらため息をついた。


「ロゼッタ殿、すまぬがそういうことだ。次の目撃情報が入るまでの間、ご協力願いたい。非礼はお詫びする、だが町の者の不安を取り除かなければならないのだ。わかってくれまいか?」

「仕方ないわ、私は犯人ではないし良いわよ。おいしい料理を期待しているって可愛い妹さんに伝えて頂戴。片田舎の郷土料理には前から興味があったの」


(きっつー、はぁーやりずれぇ)


 肩をすくめるモフモフうさぎを見て苦笑を浮かべた辺境伯は、青の大聖堂の左側に隣接する領主館へ繋がる巨大な回廊に向かった。


「人の姿も良いものだ。いちいち大きくなくても済むからな」


 唖然としているラヴィ達に、そう言った辺境伯の姿が小さくなっていく。もしかしてと思っていたが、近づくと回廊の余りの大きさに見上げるしかなかった。


 巨大なドラゴンが、翼を畳んで歩くことが出来る回廊。むき出しの青白い岩石の床は、ドラゴンの爪痕が残りお世辞にも綺麗とは言えなかった。


「どんだけでかいんだ? この分じゃ館の方も凄え事になるんじゃねぇか」

「かもねっ、でも妹のテリーゼは人の姿だったし普通サイズの部屋もあるんじゃないかな」


「あれを見て、辺境伯があんな所を歩いてるわ」


 回廊の両側の壁に階段があって、5m程の高さに人間用の通路が設けられていた。そこまで幅があるわけでも無いが、厚みのある絨毯が敷かれ、壁にありとあらゆるアクセサリーが貼り付けられていた。


「なんかさっ、高そうなアイテムっぽくないか、ラヴィちゃん。んっ、接着剤でくっついてんのかな? 固ぇ」

「やめなさいっうさぎ。もう、手っ」


 エスコートしろとロゼッタがモフモフうさぎに手を差し出した。立ち止まって待っていた辺境伯が、それを見てラヴィに手を伸ばした。


「必要無いか? ラヴィアンローズ」


 慌てて首を横に振って断るラヴィを見て、残念そうな顔をした辺境伯が顎に手をやった。


「不思議な人であるな、薔薇の御仁。あっいや気にするな、さあ行こうか。我もこの通路を歩くのは初めてでな。この先のテリーゼの館に行くのも初めてなのだ」

「そうなんですか。もしかして人の姿は初めて?」

「ラヴィアンローズ、それを君が言うか?」


 まだラヴィに触れたそうな辺境伯は、さりげなくラヴィの右隣を歩いている。自然に会話を交わしながらも、幾度となくラヴィを見つめるその目は薔薇のタトゥーをなぞり、ラヴィの息遣いを近くで感じて、再びあご髭を触った。


「あの、何か?」

「あぁ、いや、ロゼッタ殿はモフモフ卿という心に決めたお相手が居る。ならばラヴィ、君でも良い気がしてきた」


(まじか〜、ラヴィちゃん墓穴を掘ってるわ。妹だけじゃなくて兄貴まで。一体どんなドロドロのラノベを読んだんだ? 俺知〜らねっ)


 ロゼッタの柔らかい手を握りながら、モフモフうさぎは安堵したのであった。

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