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41 ダミナの町 揉みくちゃに

  【サクラアクエリア】


 ロゼッタが名付けた航空戦艦は、船体を覆う光学迷彩の効果で空を飛んでいても、地上からは見ることが出来なかった。


「そんなに遠くなかったね」


「いつ会えるかな?」


「んっ、何て言ったの?」

「ううん、気にしないで」


 サクラアクエリアから降りて来たリサが小さく呟いた言葉は、ラヴィに言ったのではなくて目の前に広がる世界へ。


「雲が流れていく、僕たちとは別の方向に」


 なんとなくそれに気が付いたラヴィがリサの隣に立って、空を見上げて言った。青い空、それはアクエリアの空よりも青く透き通っていてまるで水の中に居るかのようだった。建物や緑に少しだけ青のレイヤーが掛かって色を変えている。


「風は変わらない、緑もいつものように話してくれるよ」


 そっと意識を広げて周囲の樹木に語り掛けたラヴィ。


「冒険者達がこの先の町に集まってるって。この森を抜けると町につくらしいんだけど、モンスターがたっくさん襲ってくるって言われたの。たっくさん。あっ、お姉様、この森ってモンスターがたっくさん居るってみんなが言うの」


「そう、だからこっちには人影がなかったのね」


「いいぜっ、俺が先頭を行くわ。つーかロゼッタもリサも大丈夫だろ」


 最近お気に入りの、ブラックナイトアーマーを装備したモフモフうさぎが、ガントレットをライジングサンの姿に戻して、双剣を斜に構えた。


「ずっと聞いてたぜラヴィちゃん、相変わらずリサはちょっと違うな」


「なにが?」

「さっきの。いつ会えるかな? 誰とだ?」

「たぶんもう一人のリサだと思うよ」

「ああ、奏音(カノン)だっけな。ちゃんと見分けがつくようにしとかないとな。間違ったら俺たち殺されるぜ。どちらからも……」


「夕闇の中、たそがれた午後に打ち付ける雨音。どこに居ても本物の私を見つけてね、うさぎ」


 モフモフうさぎの隣を通り過ぎながら、そう言ってリサの方へ行ったロゼッタ。


(私のことも、ちゃんと見つけてね。ローズ)


 直接ラヴィの頭に響いた声はリサからだった。目を見合わせて苦笑するラヴィとモフモフうさぎ。


「置いて行くわよっ」

「待て待てっ、俺が先頭だって」


 ロゼッタ達の前に出て、森へ先陣を切ろうとするモフモフうさぎ。


「バカどこ行くのよ、さっさと船に乗って。町に直接乗り込むわ」

「なぜにそうなる? さっきは歩いて行くって言ったじゃんか」


 タラップの途中で足を止めてロゼッタが少し考えて言った。


「あなたが森を行くと荒らしまくって逆にばれるわ。それにリサも森がめちゃめちゃになるのが嫌だって言うし、ねえローズもそうでしょう?」


「そうだね、あの森に咲き誇る青白い花が散ってしまうのは駄目だと思うよ。たぶん今が1番綺麗な季節だから」


「おいおい、意味わかんね。じゃあなんでここに降りたんだっちゅうの」


 緑の声が聞こえるのはリサとラヴィ。リサの気持ちが自然と伝わるのは姉のロゼッタ。聞こえない3人の会話に振り回されるモフモフうさぎであった。


 ◇


「ロゼッタさま~」

「こっち向いてくれー、頼むっつき合ってくれぇぇぇぇ」

「超美人じゃんかっ、欲しいぃぃ」


 予想通りだった。ダミナの町と名付けられた冒険者の集まる中継基地は、アクエリア地方とは異なりそれなりに大きな町であり、家や部屋を借りて住むことも出来る一大拠点となっていた。

 つまりここにはたくさんのアクエリア出身の冒険者が居て、そのほとんどが2人の姫のお披露目会に参加したことがあるというわけで……


 ロゼッタの仮面を外した素顔を初めて見る冒険者だらけ。ユーザーが作るアンタレスのゲーム攻略サイトには、スクリーンショット投稿掲示板があって、ロゼッタの素顔はお披露目会最後の日の素顔のみ投稿されていた。アクエリアの超絶の美姫、ロゼッタの素顔が間近で見れるとあって、どこにこんなに人が居たのか? と思うくらいの人だかりが出来てしまっている。


「ほらなっ、だから出てくんなって言ったのに。リサは大丈夫か?」

「ユーザーにキレて姿を消したよ。その点ロゼッタは凄いよね、みんな一定の距離を保ってるもん。あれ以上近づいたら、いやおうなく殺されるって知ってるみたい」

「スクショ撮りまくりだろうな。というか動画も撮れるらしいぞ、リンドルドラゴンを倒す動画がネットに上がってたし」


 ロゼッタを取り巻く人込みの外で、モフモフうさぎとラヴィが近づけずに居ると、今度はモフモフうさぎにも声が掛かりだした。


「じゃ僕はリサのところに行くよっ」


 そう言って消えようとしたラヴィにも男たちから声が掛かった。


「あの、あの、はじめまして、もしかしてラヴィアンローズさんですよねっ。スクショ撮ってもいいですか?」

「俺もお願いします! ラヴィさんって外見がどう見ても女。可愛すぎるわ……噂通りの薔薇があるし。しかもいい香りまでするし。まさにアンタレスって感じ」


(ローズ、まだぁ?)


 リサの声が直接ラヴィに届く。しかしロゼッタとは違って、ユーザー達にもみくちゃにされているラヴィは動くことが出来なかった。


(リサ、今どこに居るの?)


 多種多様な姿の冒険者たち。ラヴィの胸をさりげなく触っていくのは何を確認しているんだろうか……


(本当エロい奴が多いわ)


「あ~も胸に触んのやめー! ちょっとやめやめ、こらー揉むなって。男だから」


「いや、男でもいい」


ギャオォォォォォォォォォーゥ


 ラヴィの後ろの方で不穏な発言も聞こえた所で、不意に重低音のモンスターの地面を揺るがす叫び声が響いた。

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