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34 指名手配犯の名は……

(お姉ちゃん、また何か近づいて来た。あたし行ってくる)


 奏音(カノン)が念話で真凛(マリン)に声を掛けてきた。今は真夜中、真夜中であるのに青い霧がどこからかの光を導いて来て、夜空が見える場所は真っ暗というわけでは無かった。


(待って奏音、無理をしないで)


(ううん、私が行ってくる。暗闇は私の世界なの。お姉ちゃんに危ない奴を近づけないから)


 真凛の体を包む夜の暗闇は、青い薄明かりの中でも途切れる事なく全てが繋がっている。それは影として存在する奏音が、どこにでも姿を現わす事が出来るという事であった。



 ◇◆◆



「今夜はベースキャンプを作る暇がなかったから、ここらで火を焚いてモンスターに備えながら休もう」


 ノーガンミール地方に入って更に南東に進んだ半透明な岩と森が入り乱れる地帯に、4人パーティの冒険者の姿があった。


 ラモス、彼は造形を得意とするスキルに特化したヒューマン。原料の分からない半透明な岩を一気に削って、4人が入れる岩屋を作ってしまった。


 ここに辿り着くまでに、彼らは周囲にアクティブなモンスターが出現しない事を確認していた。安全地帯に辿り着くのに遅くなってしまったのは、少し前まで居たエリアのゴリラのようなモンスターのテリトリーを抜けるのに苦労したからだ。


 灰色のローブを羽織ったプリーストの8PMと、アタッカーを務める魔道戦士の死塔剣呉、槍戦士兼、医者というジョブを選んだライムがそれぞれの武器をしまいながら岩をくり抜いた岩屋に入って来た。


 簡易的なドアをやはり半透明な岩で作り終えてから、ラモスは外の焚き火を見た。


(あの焚き火は消すべきだろうか? 消してから岩屋の中で身を潜めた方が、モンスターからは目立たないんじゃないか。どうだろう?)


「なあラモさん、あれ、なんか……あそこに誰か居ない?」


「えっ、どこ?」


 8PMが見つめる焚き火の向こう側をラモスは目を凝らして見てみた。しかし焚き火に照らされるオレンジ色の森の木の葉と木の幹と、暗闇の空間しか無いような気がした。


「違うかな? いや、やっ、やっぱあれ人の影だよ。なんかこっち見てる」


「どこ?」

「人がおるん?」


 死塔剣呉とライムが、開け放たれた入り口から外を覗き込んだ。


「人……影。幽霊みたいだ」


 アンタレスという世界に入り込んだラモスは、人影に気づき霊的な悪寒を感じた。それが現実の身体の反応なのか、VRゲームの中での与えられた刺激からなのか、その区別がラモスにはつかなかった。

 ゲームの中なのに、今まで培ってきた自分の勘が急激に肩の後ろを冷やす。


「静かすぎて怖いね。こっち向いて立ってるみたい」


 小声で話すライムの隣で、ナイトアイの範囲魔法を全員にかけようと死塔剣呉が呪文を唱え出した。


「冒険者じゃないよな。エイトさん、あそこにフラッシュを撃ち込んで見てくれるか」


 ラモスが影から目を離さないまま言った。


「了解。いくよっ、この道を照らしたまえ、フラッシュ」


 ツインネルマジックワンドを人影の方向に向けて、8PMがフラッシュという周囲を照らす光玉を生み出す魔法を放った。


 フラッシュで生み出された光玉は、焚き火よりも向こう側の3m程の空中に浮かび、その周囲を照らした。


「消えた。居なくなった?」


 1番前で外を見ていたラモスへ誰も返事をしない。無言と静寂が彼を焦らせて、振り向く勇気をふり絞らせた。


 ラモスが振り返った。


 今まさに首が折れ曲って死亡したライムと死塔剣呉が崩れ落ちる所だった。8PMの姿は無くて、岩屋の奥の暗がりにこっちを向いて天井付近に浮かんだ顔がラモスを見ていた。


「うわあぁぁぁぁぁっ」


 3人が殺された事に気付いて裏返った悲鳴をあげたラモスの首に、部屋の影という影から真っ暗な触手が伸びてきて巻きついた。触手は手足にも巻きついてラモスが動かないようにする。


(死ぬ、死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、やばいやばいやばいやばいやばい、怖いっ、怖えぇ、いやだぁぁぁぁぁ)


 首から血を流す切り取られたライムの顔がラモスに近づいて来た。獲物として使われるライムの顔は、用が無くなるまでは消える事を許されない状態なのだ。


 死なずともそれを見て、恐怖で意識を失ったラモスは白目を剥いて前のめりになり、巻きついた触手が無ければ前に倒れこみそうになっていた。


(人間がまた来た。こいつも私を気持ち悪い目で見てる……白い目、気持ち悪い。よだれまで垂らして、汚い、吐き気がする……死ねっ。こんなケダモノは殺してやる。死ねぇぇぇぇ)


ボトリッ


 胸を締め付ける痛みを感じながら、奏音はラモスの首を触手で引き千切って、それからライムの首を焚き火の中に投げつけた。



 ◆◇◇



 [ノーガンミールの殺人事件]


 そう名付けられたポスターが、アクエリアの公文書館の入り口付近の壁に貼られたのは、それから少し経ってからの事だった。


 容疑者は、2人。1人は姿の見えぬ黒い人影、そしてもう1人はロゼッタ。アラネア公爵令嬢、アラネア・ロゼッタ。


 アクエリアの城から姿を消したロゼッタがノーガンミールで次々に起こる殺人事件の容疑者として指名手配されたのは、殺された冒険者達の証言が皆一致していたからであった。


「僕たちはロゼッタに殺された」

アクティブモンスター


何もせずともこちらの存在に気づいたら襲って来るモンスターを、アクティブモンスターという。

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