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33 不沈戦艦・サクラアクエリア

 南正門で旅客馬車を降りて冒険者達と別れたラヴィ一行は、目立たぬように吊り橋を渡ってアクエリアの街から外に出た。

 リサは糸を使って顔を普通のヒューマンの女の子に見せかけている。


 街の外周を見回るように右側に広がる丘陵地帯に向かうと、影だけが地面に映る怪しい場所に辿り着いた。


「着いたの? モフモフさん」


 ラヴィがそう言って太陽と20m程の長さの影の映る位置を確認している。


 前回のエリスロギアノス号は流線型のクルーザーのようなフォルムで、全長30m程の魔方陣を推力とした飛翔体だった。


 ── そして今回ロゼッタが用意した船は


「潜水艦?、近くで見ないとわからないけど」


 ラヴィが目を凝らして地面に映る船の影と、薄っすらと輪郭を見せる船とを見比べながら言った。


 敢えて薄くぼかしているが、光学迷彩によって周囲の風景に溶け込む船体には、雷撃の装飾が両サイドに船首から船尾まで施されていた。静かに回転する浮力魔方陣の光は、それを時折光らせている。


 ラヴィが潜水艦と言った船の船首は、斜め上方に尖り、実際に水上を走る船としても役を成す形状であった。


「また何かの映画を見たのかな?」


「そうよ、観たわ」


 いつの間にか船から降りて来たロゼッタがモフモフうさぎに答えた。


「何の映画?」


「教えない」


「確かぁ、凄い昔の映画で船長の名前が……」


「リサっ」

「はいっ、お姉様。リサ言いませんっ」


 バラそうとしたリサに、ロゼッタが咎めるように声を掛けた。


()()()()船長は、ロゼッタなんだよねっ」


「そうだ()()()()船長はロゼッタしか居ないよなぁ」


 ラヴィとモフモフが、とぼけながらロゼッタに聞こえるように言う。


「ローズとうさぎも知っているの? あの映画の事」


「クジラが出て来るよね、本でなら読んだ事があるよ」


 降りて来たタラップをロゼッタが登って行く。


「船長〜、船のお名前は?」


「不沈戦艦・サクラアクエリア」


「桜、アクエリアなのか……」


 ラヴィがそう言って、桜をテーマにした流行り歌を、うろ覚えながら口ずさんで船に乗り込んで行く。後に続くリサがその歌の歌詞を正確に歌って、ラヴィとソプラノの澄んだ歌声を重ねた。


 2人のハーモニーに続いてサクラアクエリアに乗り込むモフモフうさぎは、現実世界で流れている曲を上手に歌いこなすラヴィとリサを、不思議な感覚で見上げていた。


 船内に入ると、2人の歌声に混ざってロゼッタの歌声も聞こえてきたのだった。



◇◆◆



崩れ落ちた神殿に残る石柱の間を、青い月明かりが照らしている。


 ノーガンミール地方で受諾するクエスト【ロンドレールの禁魔】は、このロンドレール神殿の地下深くで待ち構えている復活邪鬼、キベアを倒しそのドロップアイテムを持ち帰るというものだった。


 明かりが近づいてくる。


「いいかお互い見失うなよ、ここを出たら右に進め。いや待て、動くなそこに居ろ」


 足音が響く。柱の列が途切れて新たに現れた通路に隠れたまま、その方向をジッと見つめている。

 グランドクロスボウを構えたままの大型の獣人リザードマンのユンボスは、何が近づいて来るのかを確かめようとしていた。


「はぁ、最悪の日だな、ファーブ。戦うどころか逃げ回るばかりだ。あと何人か生きてんのか?」


「知らねえよ、黙ってログアウトしてりゃわからねえし」


 ユンボスがスクリーンショットのフォーカスモードを利用して、前方を確認する。


「なんでだろうなぁ? 殺し屋ロゼッタ様のお出ましだぜっ」


ブォンッ


 ロゼッタを見つけた途端、迷い無く狙いを定めた矢が放たれた。連射式のグランドクロスボウの2本目の矢は矢尻に火属性がエンチャントされた矢。炎がロゼッタに目掛けて飛んで行く。


「ちっ、当たんねえ。エルドナリンを打ってくれないか。筋力の耐久がもう持ちそうにないんだ」


「外した? 幽霊でも見たのか?」


 通路に立つファーブには、ロゼッタの姿が見えていない。


「馬鹿なっ、消えた? 消えるわけねぇか。ナイフを用意しとけっ、接近戦になるぞ」


「ふんっ」


 ユンボスの背中にエルドナリンの容器を押し付けるファーブ。


「こんなもん買わないで素直に帰還スクロール買っとけって話」


 空になった容器を捨てて、ファーブは手を交差して両肩から不知火を抜いた。


「良かった見えたぜっ。ベッピンさんがお出ましだ」


通路の角からファーブが覗いて言った。


「ちょっと肩を貸してくれ」


「どうした? えっ、うわっ右手」


「ふっ、既にやられたっぽい」


 ユンボスのグランドクロスボウを持ったままの右手が地面に取り残されていた。


「救急車を呼ぼうか?」


「今更ご冗談を……ファーブ、桁違いってこの事か。ぱねぇよ、攻撃が見えねぇ」


「地面が揺れてるのか? ちょっと立ってられねえし」


 そう言ったファーブが横倒しになった。両足が斜めに斬られて崩れるように倒れたのだ。


「あっ、ぱねぇ。姫さまってマジやべぇじゃん」


 目の前で上半身が切り裂かれたユンボスを見ながら、死亡判定によるログアウトを視界の暗闇の中で宣告されたファーブ。


「……違う」


 暗くなっていく視界の隅で、最後に聞こえたのはその言葉だけだった。

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