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30 盟主と呼ばれるようになる者は

 ラヴィには聞こえなかった。


 リサの持つ杖が、斧鉾(ハルバート)と化してその芸術品とも言える優美な姿を見せつけている。


 どこからか現れた蝶の姿のプライネが、リサの持つ杖の先端の花に舞い降りるとピンクの光を放って形を変えていった。左右対称の斧の部分はまるで蝶が羽根を広げたかのようで、胴体の部分は真っ直ぐに伸びて鋭い剣となる。


 どうやらリサは、姿を変えたプライネと念話で話しているようだ。


(カレー屋のガルフさんが欲しがってたよな……)


 ラヴィがふとそんな事を思い出していると、リサがラヴィにハルバートのプライネを差し出した。


「どうしたの?」

「プライネがローズと話したいって」


 淡い桃色の光に包まれたハルバートの斧の部分の刃は薄く、向こう側も透けて見えそうだった。手渡されたハルバートが余りに軽い事にびっくりしながら、ラヴィはプライネに念話で話しかけた。


(話って何?)


(ラヴィアンローズ、リサはお前と一緒に旅に出ると言った。どこへ向かうのかリサに聞いたがそれは知らぬと言う。お前に聞けとも言った。ラヴィアンローズ、お前達はどこへ向かうのだ? 我も行く必要がそこにあるのか?)


 ラヴィが触れるプライネというユニークアイテム。ラヴィという世界が持つ力は、紅竜リハクに対してそうであるように、プライネに対しても想像以上に干渉を始め、プライネというAIに人間たらしめる思考回路を植え付けていくのであった。


「僕らは人を捜しに行くんだ。だけどこの世界は魔物が溢れている、武器を持たない僕らは身を守る為に、今まで周りの植物(みんな)に助けてもらって来た。だけど、もしも僕らの力が使えない事が起きたらどうやって身を守る?」


 ラヴィがリサもわかるように念話をしながら声にも出して言った。


(つまり我にリサとラヴィアンローズの武となれと言うのだな)


(ローズ、リサにもちゃんと聞こえてるよ。リサは持ってなくても話せるようになったから)


(あっそっか、所有者ってやつだよね。所有者って変な言い方だってモフモフさんが言ってだけど、他にどんな呼び方があるのかな?)


(創造主、盟主、所有者、使用者、下僕である)


(下僕って、プライネの子分って事?)


(一応触る事は許す相手を下僕と言う。ハルトは我の下僕である)


(げっ、ハルトって下僕だったんだ。だからプライネを持っていないし、どこにあるのかを聞いてもこの辺り、好きにしろなんて言ったんだね)


(リサも所有者なの……盟主とか、創造主じゃないの。お友達ってないの? プライネ)


(我が命を賭して守るべき者を、盟主と呼ぶ。創造主……リサ、ラヴィアンローズ、我はお前達の呼び方を知らぬ。だが我の姿形を変えてしまったのはリサの力である)


(じゃあお友達でいいでしょう? リサは創造主じゃないもん、蝶々プライネはリサのお庭に来て欲しい大事なお友達)


(ラヴィアンローズはそれで良いのか? 創造主を我は知らぬ、だがそれはお前のような……)


「いいよ、いいよっ、いい、友達。俺たちは友達だっ。所有者とか使用者とかなんかカッコ悪いもん」


「リサがブンブン振り回してあげる」


(断る)


 プライネがそう言うと、ラヴィの手の中のハルバートがブルブルと震えてラヴィの手を弾いた。


「「あっ」」


 ラヴィとリサが呆気(あっけ)にとられて空を見上げた。


 白銀だったプライネが、薄桃色を基調にしたアゲハ蝶の模様を帯びて、鱗粉を撒きながら飛ぶ様子はまるで本物の蝶が大空を舞うようであった。


「自由だねぇ、プライネって」


(我の望みを話そう友よ。我の創造主はドワーフである。創造主の国は滅びてしまった。いつかこの世界に再びドワーフの国が生まれるのならば、我は行ってみたい。そして我が大空を舞う姿を我を創りし創造主に見てもらいたいのだ。岩をくり抜いた工房で産まれたミスリルの蝶が空を飛ぶ姿を)


「リサ、感動しちゃったの」


「なんかプライネって真面目だね。どっか行っちゃったし。どうやって呼ぶの?」


「リサわかんない」


「「ふふっ」」


 顔を見合わせて笑うリサとラヴィ。危なくなればきっと駆けつけてくれるんだと信じてラヴィが歩き始めると、リサが左手の手首に巻きついた黄色い紐をラヴィに見せて来た。


「それって、さっきのハルバートの柄に付いてた光る紐みたいだ」


「そうなの、リサはプライネと話せるよ。何だかんだ言ってる。ハルトに挨拶に行くって」


「下僕なのに? あれでもドワーフの王子なんだけどね」


「プライネはこの世界でハルトが唯一の友達だったって気づいたの、下僕だけど」


「そっか。お別れに行ったんだ」



 ◇◇◇



 長年使い続けた物には心が宿るという。たとえ優しい言葉をかけなくても、毎日触れて同じ年月を重ねれば、それは物ではなくて相棒と呼ばれるようになり、いつかそれを使っていた人と同じに見られるようにまでに昇華する。


 プライネやライジングサン、彼らが盟主と呼ぶのは、そういった物と人との垣根を越えた関係となり得た所有者だけだろう。

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