40 クエスト[ロビーを救え]④
モフモフうさぎが両手をだらりと下げる、下げた両手にはダガーが握られている。ジリジリとマッテオが微妙に斜めに後退りして行く。つまりモフモフうさぎがら見たら左の建物の方へマッテオは下がって行っている。
「おいっ、かかって来いよ。やる気あんのか?」
強気でモフモフうさぎが言った。ドラゴンに喰われる恐怖と比べれば、人間のマッテオなど敵としての恐怖の質量が比べる程も無かった。どうやらマッテオが下がって行く先の建物のドア、奴はあのドアを目指しているみたいだ。
(逃げる気か? いや、つまりこの開けた場所じゃあ分が悪いって事か? ならばみすみす逃す事はねえな)
モフモフうさぎが戦闘モードに入った。モフモフうさぎの闘う意識に対応して、ダークエルフの姿勢に変化が現れる、更にはあいつが目を覚ました。
(どうした? 誰と戦っているのだ?)
(うるさい、今は忙しいんだ)
今は両手にガントレットとして装着しているユニーク武器【ライジングサン】。もう既に武器とは名ばかりの、防具に成り下がっている奴だ。 本来は一対の龍刀、刀身の長さは80cmちょっとで柄の部分は拳が隠れるようにドラゴンの頭の形をした半月状の鍔が付いているサーベル、刀身の根元の幅は広く、先端に向かって細く尖っていく特殊な形状をしていて左右対称の剣だった。 鍔の部分のドラゴンの目玉、これだけが違っている。 片方が紅、もう片方が金色。
(持っただけで強くなった気分になれるカッコイイ武器だった)
(俺を過去形で話すなっ、気分とはなんだ?)
マッテオがもう既に扉に辿り着こうとしている。
「おい、ちょっとまってぉ……ぷっ」
「面白い冗談だな……ウサギ、この肉切り包丁で切り分けてやろうか?」
そう言いながらマッテオの手が扉に伸びる。
(させるかっ!)
モフモフうさぎは1本のダガーを放った。 マッテオが伸ばした手の先の扉にダガーが突き刺さり、マッテオは慌てて手を引っ込めた。
「危ねぇなあ、もうちょっとで怪我をするところだったぜぇ、ウサギちゃんよぉ」
「今のは、わざと外したんだよ。 面倒くせえから鍵よこせっ、お前も痛い思いなんかしたくないだろ」
「この世界に痛みは無い、だから遠慮はいらんぞっ。まぁ、お前を倒した後に俺の心がちょびっと痛むかも知れないけどな。 ガッハッハ」
「本当にやるしか無いのか?」
「くどいなぁ、なんで躊躇するんだ?」
「俺の目的にお前は関係ないだろ、なのに殺し合いなんて必要ないじゃないか?」
「関係ない? そうか? 切り落とさないように表面だけ切るのは俺には大変だったんだぞ」
「なんだと……今なんつった?」
「女をいたぶるのは俺の趣味じゃあ無かったが、これも仕事だからねぇ。 安心しろっ可愛い顔までは傷つけちゃいねぇからよ」
「お前がやったのか……」
モフモフうさぎが写真を取り出して、傷ついたロビーの姿を見る。
(許さねえ、やっぱこんなに傷つけやがって)
覚悟を決めたモフモフうさぎが動いた。 姿勢が低くなった瞬間姿が消えた、消えたと思うほど速い。マッテオの方へ2本のダガーが飛んで来ている。 だが飛ばしたモフモフうさぎは既にそこには姿が無い。
ガチンッ、ガチンッ
厚手の肉切り包丁でダガーを弾くマッテオ。 一瞬モフモフうさぎの姿を見失っていた。
グサッ、グサッ、グサッ
3連発で首、腹、脚にモフモフうさぎのダガーが突き刺さった。 オトリのダガー2本を放った後に、高速で移動し、そこからダガーを3連発で放ったモフモフうさぎ。 マッテオはその動きについて行けず、突き刺さったダガーの場所から血が吹き出している。
「てめぇ、強すぎじゃねぇか。一体何者だ? 戦い慣れてやがる、そこらの奴らとは違う……くっ、痛くは無いけど痛ってぇ、だがよっ、このままで済むと思うなよ」
捨て台詞を吐いて、ドサッとマッテオは倒れて姿が消えた。 消えた地面に鍵が残されていた。
「こいつか」
鍵を拾い上げてモフモフうさぎが言った。