25 プライバシーの侵害に抗議
「素晴らしいっ!」
そう言ったランスロック岩井の背後のモニターの中で繰り返される、フレディとラヴィのじゃれ合う姿。
「ふざけないでっ! もしかしてずーっと私のこと盗撮してたの?」
ラヴィがキッとスワンを睨む。慌てて助けを求めるように、スワンはランスロック岩井の方を見た。
「ラヴィ君、確かに我々は君を監視していた。君がこの世界に与えたという影響が本当なのかを調べるには、どうすればいい? 答えは君を知るしかないんだ。それにね、君がこの世界にしか居ない存在だと言うのならば、君は我々の物なんだよ」
《えっスワン、他のGMも僕の事を知ってるの……》
スワンにダイレクトチャットで話しかけたラヴィ。
《大丈夫、他のGMには君が特殊に進化したユニークキャラクターだと説明しているから。岩井さんもそういう説明をしてる》
── ラヴィアンローズが、スワンの作ったAI搭載のユニークキャラクターである。これは建前上で、本当はカンキ・アヤトと言う名の人間の頭脳がコピーされた存在。この真実はスワンとランスロック岩井、モフモフうさぎと、白刃のロビーしか知らない(ロビーは紅竜リハクに聞いていた)
「チーフ、物っていう言い方は」
「ラヴィ君、君が特殊だという事はここに居る全員が知っている。話したのは私だ、アンタレスを作る者として、そして今後このシステムを世界に展開して行く為にも秘密にしておくことは出来ないからな」
「人格を持ったAIを人と認めるのか、物扱いするかはすごく大事な問題ですよチーフ。特にアンタレスの中の一般のNPCですら、人として扱わないと途端に機嫌が悪くなるし」
ミュラーの声が天井から聞こえた。
「制限無くAIを人間に近づけた結果か……その最たるラヴィ君、君はどう思っているんだい?」
「盗撮はやめてくださいっ! たとえ私達があなた達に作られた存在でも、人権は認められるべきです。隠しカメラは他にもあるんでしょう? 全部外してください、じゃないと私は消え……あっ、そうだ、味を無くしてやる。世界の味は無味無臭。どう? ランスロック岩井さん」
微妙に論点がずれた返事をするラヴィ。脅しには屈しないという、ラヴィらしい返事でもあるのだが。
「……で、出来るのか、そんな事が」
「北の大通りの店を適当に映してみて、スワンあなたのモニター空いてるでしょ」
ラヴィに言われてスワンがモニターに、定食屋の店内を映し出した。まだ夕方であるが、店内は冒険者でごった返している。
「みんなも見に来て」
ラヴィがそう言いながら岩井を見ると、彼は仕方なさそうに頷いた。
「みんな、作業を中断して集まって、いや白鳥君の画面をそれぞれ開いて見てくれ」
腕組みをして指示を出したランスロック岩井。全員のモニターの準備が出来た所でラヴィが味の操作を始めた。
「ねえスワン。私、お店に迷惑かけちゃうかな」
「すぐ元に戻せばいいよ」
「うん、じゃあ画面に映っている料理だけやるね。いくよっ」
皆が画面に注目した。