22 GMのモニタールームに全員集合
公文書館に入ると、エントランスから延びる通路の両側にはいつものように各地のクエストの情報や、ギルドメンバーの募集ポスター、レアなモンスターノ情報売りますなどの情報販売の一覧表などか貼られていて、沢山の冒険者で溢れていた。
ラヴィは薔薇タトゥーを隠したままだ。目立たないように冒険者達と同じ服装で館内を歩くが、冒険者達には長く白い髪がスッと横を通り過ぎると薔薇の香りがフッと漂うので、その匂いにつられて誰もが振り返ってしまう。
その視線の先には見かけない髪の色の人の姿。追いかけようとすると、いきなり姿が消えてしまう。
ラヴィがリサの糸を光学迷彩として纏って、姿を消してしまったのだった。
(やっぱり、上から隠すだけじゃ薔薇の匂いがするみたいだな。ラビおじさんになった時は匂わなかったんだけど)
ラヴィは人とぶつからないように気をつけながら進み、GM専用ルームの扉の前に辿り着いた。ドアノブを握ると鍵が開く。このドアはドアノブが認証システムとなっているので、部外者が触っても鍵は開かないようになっていた。
「こんにちはぁ」
いつものように明るく挨拶をして巨大なモニターが並ぶGMルームに入ったラヴィは、ランスロック岩井が中央に立ち、GMだけでなくカルまでもが真面目にモニターの前に座り、誰も喋らない異様な部屋の空気に気がついて、静かにドアを閉めた。
「何かあったの?」
ラヴィに気づいてランスロック岩井が手を挙げた。
「ラヴィ君、よく来てくれた。スワン君ちょっと来たまえ」
(げっ、ちょっと来いにいい事無し。何か悪いことしたっけ? し、したよね……ミスリルのスプーンをばら撒いたし。きっとそれでクエストシステムに不具合が生じて、それで全員集合させられて……だからみんな怒って僕に挨拶してくれないんだ)
扉のすぐそばのモニターの前にはGMミュラーが座っていた。ラヴィはその後ろをそっと歩きながら小さな声で挨拶をしてみる。
「お久しぶり、ミュラーさん」
ミュラーが振り返る事なく小さく頷いたのを見て、少し安心したラヴィ。どうやら上司がそこに居るのでこういう態度をとっているみたいだった。
次のモニターの前には、GMソフィーが座ってモニターを操作していた。映っている画面はラヴィがまだ見たことの無い世界だった。
遥か彼方まで青を基調に世界が広がり、アーチ状に地面から空へ伸びる太く長い何かは、まるで超巨大な生物の肋骨が地面から生えているようで、モニターの中で霞む世界の果てに塔のような物がその肋骨の隙間から見えて、その遠景が見せる距離感からすると、肋骨の高さは600mはあるように見えた。
「後で説明するわ。先に岩井副社長のとこに行ってラヴィさん」
ソフィーが前を向いたまま、立ち止まって見ていたラヴィに言った。
「あっ、うん」
ソフィーが画面を切り替えるのを気にしながらも、ラヴィは部屋の中央まで進んで行った。スワンも既にそこに来て座っていた。
「こんにちは、岩井さん。スワンもこんにちは。あの、僕、何かしましたか?」
「ふぅ、こんにちはラヴィ君。ちょっとね」
(わわっ、やっぱり。このスワンの様子も変だし。僕への監督不行き届けで先に怒られたんだな。ごめんスワン)
「すいません、本当にすいませんでした」
「んっ、何が?」
「えっ? えっと、あのぉ、ミスリルのスプーンを僕がばら撒いてしまっ……」
「犯人はお前かぁぁ!」
ラヴィが全部言う前に、唸るようにドワーフ姿のハルトがマイクを通して言った。