19 ラビおじさんがクエスト発行
ガヤガヤと店内の椅子を引っ張って来て、ラヴィおじさんの周りに座る冒険者達。
どうやらこの街では、見かけない人物イコール何かのイベントや、クエストに繋がるって認識が広まっているようだ。
◇
「変なおじさんっ」
「あっ、いやその呼び方はまずいからラビおじさんて呼んでくれよ」
「ラビおじさんっすか。オッケーオッケー、で、ラビおじさんは何かクエストとか持ってるんですか?」
(僕がクエスト? クエストか。あっいい事閃いたっ!)
「いかにも、クエストはあるっ!」
「「「「「おおおおぉ!」」」」」
「新規クエストっすか?」
冒険者達のどよめきが伝わり、店の奥の方からも人が寄って来た。
「俺のクエストは、今回が初だ。とある情報を調べて来てくれ。調べて来た内容によって報酬は変わる」
「報酬って何ぃぃっ」
誰が言ったのか分からないガヤが飛んでくる。
「俺の出せる報酬はな……」
そう言ってラヴィはスワンから預かっている携帯端末を、リサの糸を光学迷彩と化して、さも空中から取り出したかのように手に取った。
「これでどうだっ?」
カタンッ
適当に選んだ頑丈な椅子が目の前の床に現れる。
「えっ椅子? なにそれ。立派な椅子だけど、報酬って椅子くれんの?」
出現した椅子の側に立っていたドワーフが、椅子にちょこんと座りながら言った。
「お前たちは、この街に部屋を借りたり、もう家を買ったりした者も居るだろう?」
シーン
「い、居ないのか……」
「そんな金持ち居ねーよ。もしかして家に置く家具をくれるとか言ってんのか?」
(当たりっ。家なんか持ってるわけ無いか。よく見りゃ駆け出しの冒険者装備だらけだわっ)
「家具はまだ早いか、うーむ、じゃあ変更する」
「おっ、マジか。報酬変えれるの?!」
「お前たち、何が欲しい?」
「金。家とか安くても500万レイはするって」
「お金は持って無いんだよなぁ、おっちゃん」
「てかクエストって何よ。ラビおじさん」
ウォーォウォー、ウォーォウォー
「うるせえぞっ」
「まあ、まあ、まあ、まあ」
店の奥の酔っぱらいに叫んだヒューマンを抑えながら、ラヴィは報酬を何にすれば良いか考えていた。
「クエストってのはな、今みんなが飲んでる酒の事を調べて来て欲しいんだ。この酒、どこから伝わって来たんだ? 出所はどこだ? 誰が作った?」
「うおぉ、それ難しいんじゃねぇ。酒の起源を探って来いってか」
「ヒント、ヒントー。ヒントをくれー」
(ヒントって言ったって、俺の方が知りたいんだけど)
「ラビおじさーんっ、酒って運営が導入したんだぜ。あんた本当は知ってんだろ、ヒントくれよぉ」
「いや、わしは知らん。そもそも酒の味すら知らん」
「えっ、嘘だろ。ほらっラビおじさん飲めよっ、そういやまだひと口も飲んでねーじゃんか」
「いや、おじさんはジュースの方が好きだから……!!」
そう言うラヴィの周りにビールジョッキを片手に冒険者達が集まって来た。さりげなくラビおじさんの手にもビールジョッキが渡されている。
「ラビおじさんとの出会いに乾杯だぁー。カンパーイッ!」
周りの勢いに呑まれてラヴィもついに人生初のビールを口にした。
── ただしゲームの中であったが。
喉を鳴らして飲み干す冒険者達は、恐らくリアルの世界でもビールを飲んだ事のある連中だ。
なぜかラヴィも負けじと立ち上がって、ゴクゴクと喉を鳴らしてビールを煽る。
(炭酸だっ! 炭酸だっ! 飲みたかった炭酸だぁぁぁぁ。くぅぅぅぅぅ苦ぇぇぇ)
そして飲み干したラビおじさんは、ゲプッをしながらよろけて椅子に座った。