39 クエスト[ロビーを救え]③
黒っぽい扉の近くに寄ると、その両開きの扉は高さ3mはあるかという立派な作りのものだった。モフモフうさぎは扉を押したり引いたり、横にずらそうとしてみたりと色々やってみたが、扉を開ける事は出来なかった。
「チッ」
舌打ちをしてモフモフうさぎは、扉を足で蹴飛ばした。よく見ると、黒く塗られた扉の取っ手の部分に鍵穴があった。つまり、鍵が無いと扉は開かないというわけだ。モフモフうさぎは、扉の向こう側が見えないかと鍵穴を覗いてみた。
「何か見えたか?」
モフモフうさぎの背後から、低い男の声がしたっ!
ハッと振り返ってモフモフうさぎは両手にダガーを構える。
「おう、物騒な事だ。そいつで何をやらかそうって言うんだ?」
モフモフうさぎと5m程距離を開けて、白い前掛け姿のヨーロッパ系のイケメンが立っていた。
「物騒とはどっちのセリフだよ、おめーがぶら下げているやつの方がよっぽど物騒だぞっ」
白い前掛けは飛び散った血で赤く汚れて、男が手からぶら下げているのは、幅の広い長方形の刀身の肉切り包丁だった。
「あぁ、これは仕事中に呼ばれたもんでな。お客さんが来ているって言うから来てみりゃ、黒エルフと来たもんだ。俺は肉切り屋のマッテオ、俺の仕事を増やすなよ。お前、そこを通りたいのか?」
「ここが何処かとか聞いても答える気は無い、とか言いそうだな」
少し時間を開けて、マッテオは答えた。
「お前は誰か聞いてなかったな。誰だお前? 」
「俺はモフモフうさぎ、としか言いようがない。ダークエルフの無職、戦士であり魔導士でもある。そういや "ナイト オブ ナイトメア"なんて称号も持ってるぜ」
「ご大層な称号持ちだな、モフモフうさぎ。で、お前はその扉を通りたいのか?」
「通らなきゃいけないのかどうかはわかんねぇ、でも置かれた状況からすれば、通らなきゃならねえようだ」
「そうか、ならば教えてやる。俺はお前がその扉を通る資格があるか確かめろと言われて来た。つまりな、通りたければ俺を倒してみろ、そうすればこの鍵はお前にくれてやる」
マッテオはそう言うと首から下げた、いかにも扉の鍵の形をした鍵をモフモフうさぎにチラつかせた。
「いや、別に戦わなくてもいいんじゃないか? 俺は急いでるんだ。普通に通してくれよっ」
「ぬるいな……言った筈だ。通りたければ俺を倒してみせろとな。実力が無い奴がこの先に進むことなど許されないのだ」
マッテオが肉切り包丁を前掛けで拭いた。