16 新発見、酒の味覚
「ねえフレディ、あれなんだろっ?」
「どれですか? あっバンクロッシですね、氷属性の液状浮遊体の生物ですが、あの青白くて丸い体からギザギザした角が2本出ているでしょう、あそこから冷気の魔法を放ちます」
「あの人、あれに復活の果実を使ったのか」
「結構大変だと思いますよ。火属性の魔法しか効かないですから、倒してしまわないギリギリなダメージを与えないと溶けて消えてしまいますし」
「詳しいねっフレディ」
2人して窓から噴水広場に面した通りを覗いているラヴィとフレディ。なぜかラヴィは女の子の姿になっていて、頭を撫ぜられているフレディが嬉しそうに目を閉じた。
「ラヴィさん、この前見た地球のホログラム動物図鑑にはあんな動物は1匹も居ませんでした。もしかして絶滅した生物なんですか?」
「違うと思うよ。バンクロッシは架空の生物。絶滅したのはたぶんドラゴンだと思う」
「あっ、お湯が湧きました。コーヒー淹れますね」
そう言ってフレディが、ラヴィの部屋のキッチンに小走りで向かって行った。
また少し背が高くなったフレディ。伸びた髪を無造作に後ろで束ねて、少し大きめのグレーのネルシャツを着た彼は、髪をさっきチャコールに染め上げた。
窓辺に腰掛けたラヴィは、ペットモンスターを連れて通りを歩く人々の様子をまだ眺めている。
◇◇◇
世界が変化した。それに気づくのは、何かを食べた時だった。誰もが新しい味を感じて、その事を口にし、噂話としてそれが広まっていく。
今日は森の奥地で探検中のパーティから、森の中にある中継地点を経てこのアクエリアの街まで、新しい味が発見されたとの報告が届いた。
味のアップデート。それは環境変化型の世界ではリアルタイムで行われてしまい、人々はそれを確かめる為に常日頃からありとあらゆる物をまずは食べてみる、という原始的な方法で味を調べて来た。
調べられているのは、突き詰めて行くとラヴィの味覚に辿り着くのだが、それは人々にとって他人の味覚を知るという事で、知っている味もあれば知らない味もある。
もしもそれが貴重な味のする物だとすれば、発見者は公文書館から多額の報酬を受け取る事が出来た。
そしてそれ以上に味覚ハンターとしての名前も売れて行き、知名度が上がって行くのであった。
◇◇◇
アクエリアの街を世界の中心に置いてみると、今現在、北側にあるのは近い順に並べると
〔トボトの町〕
〔世界樹ユグ〕
〔テンペスタ〕
イザヤの居城であった地下のダンジョン。
道中に小さな村がいくつかある。
〔ゴブリン王国コバロス〕
今はモンスターの出没する人気のダンジョン。
〔ベルクヴェルク鉱山都市〕
今は廃墟。
道中に小さな村がいくつかある。
〔海洋交易都市オセア〕
となっている。
〔海洋都市オセア〕は、基本アクエリアと扱いが同じで、オープンβテストに新たに参加した人々が選ぶ事の出来るホームタウンだ。海と面している街で海産物が豊富。船での航海で未発見の島とお宝を探す拠点となる。
〔ゴブリン王国コバロス〕、実はコバロスって名前があったらしい。
ゴブリンは体長40センチ、集団で動き、邪悪で意地悪、簡単に人を殺してしまう。
鉱山都市ベルクヴェルクの近くにあって、前回ベルクヴェルクが実装されると直ぐに鉱山を狙って、ベルクヴェルクを集団で襲った。頭が良く捉えたドワーフに武器や防具を作らせたりして戦力が高かった。
ゴブリン王国のコバロスが何故存在したのか? そもそもせっかく用意した〔鉱山都市ベルクヴェルク〕を、なぜ襲ってしまったのか?
その答えは、バッドムRの責任であった。奴は白刃のロビーに嫌がらせをする為にコバロスを勝手に設置した。その場所が、たまたま〔鉱山都市ベルクヴェルク〕の近くであったのだ。
本来〔鉱山都市ベルクヴェルク〕は、第2のホームタウンになるはずだった。しかしゴブリンが使った『月呑みの大槌』という名のユニーク武器によって街は完膚なまでに破壊されてしまった。
そのゴブリン王国コバロスも今は廃墟となり、ただのダンジョンとなっている。
紫紺の美姫イザヤが彼女の居城〔テンペスタ〕を荒らしたゴブリンに怒り、単身でゴブリンを消し去ったからだ。
その事実はまだ誰も知らず、ダンジョンの最下層に眠る粉々にされた『ゴブリンの再生の宝玉』と、ユニーク武器『月呑みの大槌』はまだ発見されていないのであった。
そして今回新しい味を発見したという報告は、アクエリアの街から南に下った地域から伝わって来た。
噂は直ぐに広まり、味覚の伝播は街の飲食店のメニューに影響を及ぼしていた。
『酒』
それはラヴィが知らない味覚なのであった。
ホームタウン:
プレイヤー達が初めてゲームに登場する時に選ぶ街を言います。
クローズドβテストの参加者のホームタウンは全員アクエリアです。
今回行われたオープンβテストからの参加者はホームタウンを、アクエリアと海洋交易都市オセアの2つのうちのどちらかを選ぶ事が出来ます。
備考*
本来の計画では、鉱山都市ベルクヴェルクが第2のホームタウンとなる予定でした。しかしバッドムRが勝手に設置したゴブリン王国によって、完全に破壊されてしまいその計画は頓挫してしまいました。
そのゴブリン王国も今は廃墟ダンジョンとなり、ゴブリンも絶滅危惧種となっています。なぜならば、紫紺の美姫イザヤがゴブリンを消してしまったからです。