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10 枯れ果てた回廊に立つ奏音

「あの、湯沢チーフお願いが」


「なんだね軽井沢君」


「実は1度経験があるんですが、クエストの中に後から入る事は出来ないんです。あっ、さっき向こうのモニタールームで皆さんにお話した時に言ったけど、同じクエストとクエストの統合は出来ました。それで僕が今から新しいクエストに入りますが、繋げてくれませんか」


「どうやるんだ?」


「はい、こういう時は……」



 ◆◆◆



 スワンの作ったクエスト最初の町の一角。実際のイタリアの路地を参考にして作ったと言ってたこのフィールドに立つのは、初めてだ。


 ── 確かここで写真がヒラヒラと落ちてくるはずだ。


 やっぱり落ちて来ない。変わってる、もうこのクエスト自体が変化している。つまりだ、この量子系記憶媒体自体がこのクエストに変化を加えて来ているって解釈出来るわけだ。


 ツルツルになった石畳、ショーウィンドウに反射する自分の姿。誰1人居ない街角。もうすぐこの路地の突き当たりだ。


 マッテオ、いやオッサンが……んっ、今回は名前を変えたりしてないぞっ、えっ、という事はマッテオが出てくるのか?


 おっ、突き当たりの黒い扉の前に男が出てきた。本当に肉切り包丁をもってやがる。


「おーいっ、お肉屋さーん。こんにちはー」


「おうっ、よく来たなぁ。ってお前誰だ?」


「俺はカル。お肉屋さんはマッテオさん」


「ふぁん? 誰だそれっ、俺はオッサンだ。肉屋のオッサンって呼ばれている」


 このクエストの目的は一体何になったんだ。クリア条件がわからない。何かヒントがあるはずだ。


「お前、カルだな。カル、何しに来たんだ? 返答次第じゃここは通さないぜっ」


 湯沢チーフにはこの黒扉を境にクエストの統合をお願いしてきた。やり方は速攻で理解してくれたので、というかあの人に教えるなんて言い方もおかしいけど、とにかく俺がクエストフェールドに入った時点で、Rの居るクエストと俺の居るクエストの統合は終わってしまってるはずだ。


「少し話を聞きたい。オッサンさん、あんたはこの黒扉の門番なんだよな。どんな人ならここを通すんだ?」


「この黒扉を通れるのは勇者のみ」


「俺が勇者かどうかわかるのか?」


「ふんっ、お前が勇者なら証明してみせろ。今から言う俺の3つの質問に答えられたなら、通してやろう」


「答えられない場合は?」


「帰れ。お前に用は無い」


「いやっ、それでも通りたい場合は? 他に方法は無いのか?」


「質問1、お前は強くなれるのか?」


 無視していきなり質問を始めやがった。


「なれる」


「質問2、お前は世界を守るのか?」


「守る」


「質問3、この扉の向こうには何がある?」


「花の回廊だ」


「正解だ」


 えっ、素直に鍵を出したぞ。


「ちょっと待ってオッサンさん。今の質問の答えってそれで、さっきのでいいのか?」


「うーん、良くわかったな。お前先に扉の鍵穴から向こうを覗いたのか? いや、それとも離れた場所の様子を見ることのできるスキル持ちなのか……いずれにせよ正解だ。さあっ先に進むが良い。勇者よ、お前の前途に栄光あれっ」


 何だこれっ、もう全然違うぜっ。もしかしてだけど、やっちまった。そう言う事か! スワンのこのクエストってランダムクエストだっ。同じクエスト内容だったらユーザー同士で情報交換されて攻略されてしまう。それを避ける為に、同じ内容は起こらないように作られた特殊クエスト。写真ってのはたまたま重なっただけか……


「やっべえなあ」


「どうした勇者カル。先に進むが良い」


「オッサンさんは来ないのか?」


「俺の役目は終わった。もう仕事に帰らなければならない。その鍵で扉を開けれは新しい世界が開くだろう。お前ならきっと上手く行くはずだ。頑張れよっ勇者カル」


バタンッ


 えっ、向こうの路地に面した店の扉が閉まった音がして、オッサンの姿が消えた。一緒に来ねぇのか。


 っしゃあ、行くかぁ。どうなったんだろうなぁ。Rか無事だといいんだけど、取り敢えず現状確認。おそらくあいつ奏音に捕まって動けなくなってるに違いない。つーかあいつの場合のクエストクリアの条件って何だろう?

 Rも勇者って呼ばれていたよなぁ。なんか最後に敵でも出てくるシナリオなのかな? たぶんそうだな、進みながらシナリオが展開されて目的がはっきりしていくタイプだ。


 まあ、行くしか無い。行くぞっ、俺は勇者カル様だぁぁ!



 ◆



 開いた黒い扉、その向こうに広がる花の回廊、むせ返るような花の香り……


「なんだこりゃ?」


 本来、緑が繁茂しているはずの花の回廊に、水気を失って枯れ果てた植物の残骸が散らばっている。


 どうして?


 踏み出す足が歩くたびにカサカサと音をさせて、頭上にかかる干からびた蔓は手で振り払うとポキポキと折れてしまった。




「お前、何してる……また来た……人間が、もうみんな居ない。私だけ……なのにまた来た。うぅっ」



ブアシィィィィィィッ



 床を打ち据えた黒い鞭が、カルの首にそのまま巻きついた。


「ぐっ、ぐえっ、カノ・ン」


 真っ黒いボディースーツで身を包んだ奏音が泣きながら鞭を引き絞った。


「人間なんて、みんな死んじゃえっ」


ギュゥゥゥゥゥブチィィッ


 カルはそこで死んだ。

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