37 クエスト[ロビーを救え]①
やっと息を吹き返したリアルのモフモフうさぎ。
(やっべ、まじやっべー。俺、人生で初落ちしたよ)
モフモフうさぎは、彼の部屋の床に倒れたままに汎用型VRヘッドギアを脱ぎ捨てて、床から身を起こした。外す前の画面には、[ゲームオーバー]の文字が浮かんでいた。
(よだれが垂れてた……いやーびびったぜ)
モフモフうさぎは、ズボンが濡れていないか確認しながらトイレに向かった。リプレイ機能が無いリアルタイムオンラインゲームなので、モフモフうさぎが気を失っていた間に何が起こったのかを確認しようが無い。ただ、あのクソでかいドラゴンに食い殺されて死んだのは間違い無いだろう。
(食われる前に気絶しといて良かったー、さすがにあの牙にぐっちゃぐっちゃに噛まれるとこまで行ってたら、やばかったかもな。だけどなんであんな場所にスポーンしたんだろう? まっ仕切り直しだな)
「気合い入れねぇとまずいなっ」
洗面台の鏡の前で自分に向かって言う。
(おしっこちびんなよ! 笑えねぇし、リアルでヤベェゲームだけど、お前は負けないっ!)
鏡に映った自分に言い聞かせて顔を洗うと、モフモフうさぎは冷蔵庫からコーラを出して一気に飲み干し、ゲップをしながらVRヘッドギアを装着した。次も古代竜の信仰の谷だったら、今度は速攻でログアウト。そん時は運営に苦情を入れる予定だ。1度死んで、そして生き返ったモフモフうさぎは、再度アンタレスの世界にログインしたのだった。
昼過ぎの暖かな陽射しが水面で反射して、空を見上げるとそこには見上げるほどの階段が伸びている。階段と言っても、その横幅は15mぐらいあって両サイドに上から緩やかに流れ落ちる小川の流れがあり、所々から細い水柱が立ち上がって空中で一瞬、霧となって消えていく。階段の頂上にはギリシャの神殿を模した建物が見えていて、その神殿を観ると[水の女神アクエリアの神殿] と、視界に薄く文字が浮かんで来る。普通のプレイヤーはログインすると、ちょうど神殿から流れ落ちてくる水が溜まる円形の噴水の周りにスポーンするのだが……
はいっ、モフモフうさぎはそうではありませんでした!
《GMスワンのとっておきのプランが発動した》
「あーーーーーどーーーーこーーーーだーーーっ」
山でこだまが返って来るのを期待して、でかい声で叫ぶように、モフモフうさぎが叫んだ。床がタイルを貼ったように艶めき、奥行きのある街の路地。真っ直ぐな道が先の方まで続いているが、行き止まりに大きな両開きの黒っぽい扉が見える。
「誰も居ねえじゃねえかっ。またバグか? まぁ、さっきの竜の谷よりはマシだけどなっ!」
モフモフうさぎは、誰かが居たなら聞こえるように敢えて大きめの声を出して言った。反応が無いか耳を澄ましたけれども、人のいる様子は無い。右も左も4階、5階建の建物が道に面してきっちりと並んで繋がっている。建物の色は薄いクリーム色で統一されていて、モフモフうさぎの知識ではイタリアのとある街角のような気がした。建物の1階部分は、店であったり、アパートの玄関であったりするが、肝心の人が居なかった。