101 竜の襲撃、城が燃ゆ
グォオオアァァァァァァ
竜の叫びが再びホールに響いた。至近距離でこれを聞いた者は耐えきれずに気絶するか、少なくとも動きを封じられてしまう。
「何度もうるさいわねっ」
背後から迫る紅竜リハクが翼を広げようとした。
「馬鹿なドラゴン。あんたには狭いんじゃない? そのまま絵にしてあげる」
イザヤの手にオブリビオンの杖が現れた。
「パラノ……」
「私を無視しないでっ」
ガキィィン、キンッ、キンッ、キンッ、キンッ
背後から斬りかかったロゼッタの剣撃を、流れるように杖で受け流すイザヤ。その舞にも見える素早い動きは、縦に横にと予測不可能で、追いながら剣を振るロゼッタにジリジリと焦りが生じた。
(全て受け流されてる。それどころか1度もまともに当たらない)
ロゼッタの剣撃を、杖を滑らせるように受け流していくイザヤの剣技。
(これだけの実力があるなんて……)
パッとイザヤから離れるロゼッタ。
「ん? どうしたの、もう終わり?」
「わかったわ、確かにライジングサンも舞っていたわね。あなたを斬り殺すには私も踊るしかないみたい」
シュルシュルと着ているメイド服が紫のドレスに変わっていき、ロゼッタ姫がいつもの姫の姿に戻った。
「そんな動きにくそうな服で大丈夫?」
「心配はいらないわ。それよりあなたのお相手は私だけじゃないみたいよ」
そう言ってロゼッタが空を蹴って離脱する。
「あっ、逃げた」
ブォン、ズゴゴゴゴ、ドンッ、グシャァァァァァ
破壊音と衝撃がイザヤを襲った。髪をなびかせて振り返るイザヤの目に、大ホールの両側の壁を竜の波動でぶち壊している炎のドラゴンの姿が映った。
バリバリ・ガラ・ガ・ガ・ドォァァァァァン
埃の舞い上がるエフェクトは見事だった。
「あーあ、壊しちゃった」
空が見える。頭上に落ちてくる天井を、オブリビオンの杖で消し去ったイザヤがそのまま天井を抜けて行く。
ブォン
紅竜リハクが翼をはためかせて、空に舞い上がった。見えない熱風の塊がイザヤを下から襲う。
「えぇっ何これ?」
グンッと身体が押し上げられてそのまま上空に弾き飛ばされたイザヤ。それを炎を残しながら追う紅竜リハク。
その姿はアクエリア城の真上に突如現れた邪悪なドラゴンと、ドラゴンと戦う戦乙女の姿にも見えた。
◇
アクエリアの街行く人々にも、異変は伝わっていた。そもそも今日は城門広場で[復活の果実]の配布抽選会が行われる。午後3時から始まる抽選会を前に、順番を待つ人々の列が既に城の外には集まっていたのだ。
ドォォォォォンッ
城から何かが崩れる音がした。
ドンッ、ドンッ、ボーンッ
更に衝撃音が聞こえる、今度は地面が震えた。
「何? 花火?」
「いや、なんか変だ。見える?」
「ちょっと待って。先に並んでるギルメンにチャットで聞いてみる」
《おーい、門の所のアルウエンさんっ。もしもーし》
《幻士郎さん、やばいっす。また始まった! もう相変わらずイベントごとに何かやらかすよねっアンタレスって。予想通り、やりやがるっていうか》
《また隕石が落ちた?》
《ちゃうちゃう、ちょっと待って。うぉー出たぁぁぁぁ。でっけぇドラゴンが城から出てきたぁぁぁぁ凄ぇ》
《マジ、マジ、マジ? 見えん、どこ?》
《上。空を飛んでる、つーか誰か戦ってる?》
幻士郎が空を見上げて、真っ赤に燃えるドラゴンを見つけた。
「居たぁぁぁぁ、あそこっ、ドラゴンっ!」
空を指差す幻士郎の声を聞いて、周りの人々が一斉に空を見上げた。
スクリーンショットのフォーカス機能を皆が利用して、遠距離であっても拡大して見ることが出来る。
「おいっ、竜の背中見てっ。誰か乗ってるぜ」
「つーか戦ってる女の子、超美人じゃね! 何あの杖、見た事ねぇし」
上空で炎が暴れまわる。そこに輝く光が城から高速で近づいて行った。
「来たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ロゼッタ姫ぇぇぇぇ」
テンション爆上がりの冒険者達。