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100 イザヨイのツルギ

「ロビーはさがって」


「了解」


 リハクの持つライジングサンから、炎が噴き出している。リハクが剣を振る度にその炎は竜の姿に変わってイザヤを襲って行く。


「チョロチョロとこざかしい。もういいわっ、お前達は全て消えてしまえばいい」


 イザヤが駆ける。


 空間に残した足跡からは、色の混じった波紋が広がり、波紋がぶつかった壁が2次元の絵のように揺らいだ。


『暴威の三日月っ』


 ロゼッタの持つライジングサンから放たれた三日月の形をした剣撃が、イザヤの残した波紋を切り裂いて行く。襲ってくる剣撃をことごとく(かわ)したイザヤは、オブリビオンの杖を振り、炎の中に道を拓いた。


「『暴威の三日月』からの、『夕立ちと落雷』とどめの『白眉光塵っ』」


 ロゼッタが誰かに教えるかのように、いちいち口に出してライジングサンの技を繰り出す。


「うさぎっ、私はこう使えっ!」


 床を蹴り上げてイザヤを追ったロゼッタ。


『暴威の三日月』


 輝く三日月が生まれたのが見えた……ドンッと空気を震わせそれが光の速さでイザヤに放たれる。


ブンッ


 躱すイザヤ。


(危険、あれは私の体を切り裂いてしまう)


 天井に細長い切れ目が開く。イザヤを追うようにロゼッタが攻撃を続ける。


「踊れ闇の巫女。舞うのがお前の仕事であろう。ならば踊ってみせよっ」


 ロゼッタの剣が眩く光る。


『夕立ちと落雷』


ババババババババババババンッ


 大ホールの天井に突如生まれた光の剣が夕立ちのように降り注いだ。


 イザヤは剣の雨を遮る傘を持たない。致命傷は避けたが、一瞬で身体中に切り傷を負ったイザヤが声を失う。


(くっ、次から次へと)


「ふふっ、壊れた壊れた」


「何よっ、私の(ライジングサン)を勝手に作り変えて」


 イザヤと同じ高さに浮かんで正面に立ったロゼッタ。次なる攻撃をせんと、剣を正眼に構えて背筋を伸ばした。


「させるかっ」


 細切れになったチュニックの隙間から、血が滲むイザヤの素肌が覗く。小さな手で握りしめたオブリビオンの杖が、忘却のストールへと姿を変えてイザヤを包み込んだ。

 ストールを彩る虹色が、グルグルと色が混ざり合って行く。そして最後に残された色、それは深い宇宙のような紫紺。


 紫紺のドレスに身を包んだイザヤ、僅かに袖とスカートの端に虹の輝きを残している。


 紫紺の美姫イザヤが本来の姿を現した。


「イザヤ様が相手をしてやるわ……出しゃばりの小娘」


「我の名はロゼッタよ。あなたよりも強くて、しかも若くて可愛いわ。でしょう? 私のうさぎにちょっかいを出した泥棒黒猫のオバさん……えっと、どなたでしたっけ?」


 とぼけた口調で、笑みを浮かべるロゼッタ。それを見たイザヤの眉間にシワが寄る。


「いちいちムカつく。私は闇の魔宮テンペスタの女王イザヤよっ。ひざまずいてその剣を返しなさいっ。十六夜(いざよい)(つるぎ)は、元々は私の名の剣なのだからっ」


「えっ、ライジングサンじゃないの?」


「そんな品の無い名の剣では無いわ。 ダークエルフの前の所有者の大馬鹿が勝手に名付けた……」


「そうだったの、素敵な名前の剣ね。お前は十六夜(いざよい)(つるぎ)って言うんだ」


 イザヤの話を聞いているのかいないのか。ロゼッタは手にした剣のドラゴンの頭の形をした鍔の部分に話しかけると、突然剣の切っ先をイザヤに向けた。


「いい名前をつけたわね。それだけは褒めてあげる。でもサヨナラよ、女王イザヤ」


 ロゼッタが持つ剣の周りの空間が捻れて渦を巻く。


白眉光塵(はくびこうじん)


 光が輝度を増すと眩しい白になる。十六夜の剣の光で照らされた物体の色が、白に塗り替えられてその影すら逃げ場を失って消えていく。光に照らされたイザヤが呪文を唱えた。


暗黒の瞳(ダークサイド)


 イザヤを襲ったはずの光の束が、紫紺のドレスに飲み込まれていった。


「恐ろしい技。でも効かないの。だって私は光を呑み込む暗黒の宇宙だから」


「そっ、そんな馬鹿なっ!」


「消えるのはお前の方よ、ロゼ……ふふっ、あなたって何てお名前だったかしら?」



 ◇



「いかんっ、このままでは全てが飲み込まれて終わる。ロビーこちらへ、剣を」


 リハクが炎のライジングサンをロビーに手渡した。


「姫を護れ我が鎧よ」


 リハクが見つめるロビーが真紅の鎧で覆われていく。紅色の戦姫ロビーがそこに居た。


「ロビー、幸いにもすぐそばにラヴィ様が居る。私はあれを止めて来る。姿を変えるがその鎧は炎が効かぬ、我の背に乗れ、姫」


「はいっ、リハク様」



ズゥゥゥンッ



 大ホールの崩れたテーブルを踏み潰して、紅竜リハクが姿を現した。ラヴィが居る事で溢れ返る魔力の奔流が、ロゼッタとイザヤを掠めて紅竜リハクに向かう。


「今度は何なのっ?」


 暴風のような魔力がイザヤの髪をかき乱す。


「紅竜リハクか……」


 イザヤに斬りかかるタイミングを見計らうロゼッタ。



 グウォォォォォォォ



 龍の叫びがホールに響いて、テーブルの下にずっと隠れていたマッテオが失神した。


「凄っ、竜、竜が燃えてる。それに見てローズ、竜の背にロビーが乗っているの」


 紅竜リハクを見つめるラヴィとリサ。そしてロゼッタから目を離さないモフモフうさぎ。


 超絶の2人の美姫と、炎の魔竜の三つ巴の戦いが始まろうとしていた。

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