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98 ぶち壊したのは誰になる?

「久しぶり? 誰かはわからないけど、これどけて」


 首筋に当てられたままのライジングサン。イザヤですらも抗う事は出来ないのであろうか?


「暗黒の不死者 カニバリズマーのライジングサン、覚えておらぬか?」


「知っているわ。昔の事だけど、不死者って名前のくせに死んでしまった男の事でしょう?」


「我をあやつから解放したのが、このダークエルフである」


 剣がガントレットへと姿を変えた。今日のモフモフうさぎは金色の鎧姿で異様に目立つ。モフモフうさぎに憑依したライジングサンは、マントを(ひるがえ)して振り返り、見ている本日の食事会のゲスト達に向かって再び剣を掲げた。


円舞曲(ワルツ)がお望みか? それとも終わらない絶望の輪舞曲(ロンド)がお望みか? どちらでも良いぞ……我が名はライジングサン、踊ろうではないか、"闇夜を照らす狂乱のシンフォニー"と共に」


(おいおい、何言ってんだ。やめろよマジで、おいっライジングサン聞いてんのか!?)



 ◇◇◇



「何か騒がしいわね」


 厨房とは別に用意された部屋で、復活の果実を切り分けているロゼッタがリサの方を見て言った。


「お姉様、お皿の数が多すぎなの。きっと間に合わない」


 ロゼッタが手を伸ばして何かに触れていた。


「リサ、悲鳴が聞こえる。この声って衛兵さん達ね。何が起きているのかしら」


「お食事会場の方?」


「お客様の声は聞こえないわ。でも何かと戦っているみたい」


「何か? お城にモンスターが出没したの?」


「あっ、ここだったのか?」


「ローズっ」


「リサ、ロゼッタも。どうやら襲撃を受けているみたいだ。狙いは恐らくこれだ」


 ラヴィが指差す復活の果実。綺麗に盛り分けられて、その切り口からはほんのりと甘い香りが漂っている。特別な果実は他の使用人には触らせていなかった。


「モフモフさんと連絡を取ってみるよ」


 《モフモフさん、そっちはどう?》




「返事は?」


 少し待ってから、ロゼッタがラヴィに聞いてきた。しかしモフモフからの返事が返って来ない。


「おかしいな、スワンからも返事が無いんだ」


「行ってみましょう。ホールの声が聞こえた。うさぎは食事会場に居るわ」


 なぜか慌てた様子でロゼッタが部屋から出て行く。


「リサ、なんで?」


「わからない、私達も行こう、ローズ」


「うん、気をつけなきゃ。ロゼッタ早いよっ」


 廊下に出ると、そこにロゼッタの姿はもう無かった。



 ◇◇◇



「あっちに居なくて正解だったな、カルさんや」


「全くだ、なんだあいつら。食事会がメチャメチャじゃねえか。俺の出番が来る前にわけのわからん。あんな感じだったっけ?」


「何が?」


「何か空気感みたいなのだよ。細かいディテールの再現度が上がった感じみたいな」


「そういや変わってたな。ステーキの旨そうな匂いが強烈だったけど」


「「んっ?」」


 アクエリア城の西側の中二階を走る回廊から、赤い絨毯が敷かれた階段を適当に選んで降りてきたバッドムRとカル。

 階段がある場所は、吹き抜けになっており四隅に階段が向かい合って作られていて、1度階段の真ん中のフロアで合流して大きな1つの階段としてそこから1階に続いていた。


 石壁を黄色く照らす光は魔法の光なのか? 2階や、中階段で黄色い光を放つ照明は、格段に明るくてそれだけで天井までしっかりと灯りを届けている。


 2人が階段を降りてすぐ正面に扉が開いたままの部屋があった。


「甘い」


 ゲームの中である事を完全に忘れた様子のカルが、そう言って鼻から息を深く吸い込んだ。


「染みるぅぅ。これこれこれっ、これじゃん復活の果実。なんでここにあんの?」


 先に部屋に入ったバッドムRが手前に並べられた皿に顔を近づけて、匂いを嗅いでそのまま切り分けられた果実を口にした。


「ふむわっ、うむぁっ?! ゴクンッ」


「ちょっ、俺も」


 ジュルッ、クチュクチュ……


 一心不乱に食べまくるカルとバッドムR。見る角度によっては虹色に輝く果実。魔力が伴うのか、いけない薬が効いたかのように果実を食い荒らす2人は、幸福感に包まれていた。



 ◇◇◇



円舞曲(ワルツ)がお望みか? それとも終わらない絶望の輪舞曲(ロンド)がお望みか? どちらでも良いぞ……我が名はライジングサン、踊ろうではないか、"闇夜を照らす狂乱のシンフォニー"と共に」


 ゲストに向けてライジングサンを斜に構えて、礼をするモフモフうさぎ。金色(こんじき)の鎧が光を反射して見る者の視線を奪う。


「素敵っ」


 いつの間にか隣に立ってモフモフうさぎを見つめるイザヤが居る。凄腕エースプログラマーで副社長の『ランスロック岩井』は、イザヤが漏らした声に気づいておそるおそる、話掛けてみた。


「あのっ、君はもしかしてNPCな」


 全部言い終わる前に、ランスロック岩井は消された。


 モフモフうさぎに憑依したライジングサンが斜め下に構えた左手の剣を振り上げた。


 ブォンッ


 空気を切り裂く音が聞こえた。一瞬遅れて衝撃が長いテーブルに走る。


 テーブルを一刀両断した剣撃が、そのままゲスト達を両側のゴシック調の壁に弾き飛ばした。食器やグラスも全て飛び散り打ち所の悪かった人々は死亡判定をされて、ログアウトして姿を消していった。


「なぜ? うさぎっ、何をしているのっ!」


 生き残ったのは空中に浮かぶモフモフうさぎよりも後ろに居た人々だけ。テーブルに倒れ込んだタチバナ社長も一応息はあるようだ。


「何が、どうなって……スワンく」


「うさぎっ」


 フロアの床までざっくりと割れてしまった光景を見て、ロゼッタが呆然とした表情でモフモフうさぎを見上げた。


「誰、お前? ダークエルフに何の用があるの」


 ビキビキビキビキビキビキッ


 天井から音が響く。凍りつく空気。色を失いかけた世界が、別の力によって押し戻されて行く。


 睨み合いを始めたのは、イザヤとロゼッタ、2人の美姫であった。

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